最新記事

景気

米国に続きカナダも逆イールド 鮮明な景気後退シグナルか

2019年3月30日(土)13時00分

3月28日、米国債市場で長短金利が逆転して「逆イールド」化し、これがリセッション(景気後退)の前兆かどうか投資家は頭を悩ませている。加オタワのカナダ中銀前で2009年7月撮影(2019年 ロイター/Chris Wattie)

米国債市場で長短金利が逆転して「逆イールド」化し、これがリセッション(景気後退)の前兆かどうか投資家は頭を悩ませている。そこで参考になるのが、中央銀行による国債買い入れによって市場が歪んでいない隣国カナダの債券市場だが、こちらも逆イールドとなっている。

米国債市場では先週、10年物利回りが3カ月物政府短期証券の利回りを下回り、10年強ぶりに逆イールドとなった。

過去50年間の米国のリセッションでは、常にその前に逆イールドが出現していたが、今回は指標性が小さいと一部の市場参加者は主張している。米連邦準備理事会(FRB)による数兆ドル規模の国債買い入れより長期金利が低下し、市場が歪んでいるから、というのがその理由だ。

カナダ市場も先週、逆イールドとなった。経済規模は米国の10分の1程度だが、景気の先行きを予想する上で同国は代替的な指標となるかもしれない。

カナダは州による債券発行が多く、長期国債の発行は米国に比べて少ない。国債市場は中央銀行による直接的な影響が小さい一方、経済は米国と密接に結びついており、米国がマイナス成長に陥っていないのにリセッション入りした前例はほとんどない。

リフィニティブ・アイコンのデータによると、カナダと米国の債券市場は相関が強く、相関度は90%超に達する。米国債市場の歪みが大き過ぎて景気指標としての力を失っているのであれば、この相関は崩れるだろう。

CIBCアセット・マネジメントのグローバル債券担当バイスプレジデント、パトリック・オトゥール氏は「両方が逆イールド化したことは、債券市場が数四半期以内のリセッション入りを予想していることを示す真の警告だ」と指摘。「カナダが発する信号の方が米国より明確だ」と続けた。

カナダは過去50年間で5回リセッションを経験しており、主要輸出品である原油の価格が急落した2015年を除き、常に米国のマイナス成長と歩調を合わせていた。

また、15年のリセッション前には逆イールドが起こらなかったが、世界金融危機前には起こっていた。

現在は、貿易摩擦や過去最高水準の家計債務を背景に、カナダ経済が悪化するとの懸念が広がっている。

カナダの短期金融市場はこれまで、中央銀行の利上げを織り込んでいたが、今月に入って、年末までに75%の確率で利下げがあると予想する水準になった。中銀は2017年7月から合計125ベーシスポイント(bp)の利上げを実施し、現在の政策金利水準は1.75%となっている。

カナダは過去、逆イールド化の後に必ずしもリセッションに陥っていない。ただ、逆イールドになると銀行の貸し出し意欲や、投資家の長期プロジェクトへの投資意欲が衰えるため、金融環境が引き締まるのは事実だ。

フランクリン・ビセット・インベストメント・マネジメントの債券ディレクター、トム・オゴーマン氏は「逆イールドは鼻であしらわれているが、長期化、あるいは深化すれば金融環境の引き締まりが成長を圧迫し、自己実現する可能性はある」と語った。

(Fergal Smith記者)

[トロント 28日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中