最新記事

エネルギー

米国産原油・輸出解禁の価格インパクト

石油メジャーが熱心なロビー活動で解禁させた輸出の市場環境

2015年12月21日(月)18時15分
リア・マグラス・グッドマン

浮上のチャンス? 原油安でアメリカの石油産業は苦境に陥った Cooper Neill-REUTERS

 かつて石油メジャーは、業績不振に直面すると経営破綻を避けるためならなりふり構わず何でもやった。原油価格が1バレル=20ドル台に下落した1980年代、BPはドッグフードに進出した。オクシデンタル・ペトロリアムは牛肉加工会社を買い、ガルフ石油はサーカスを買おうとして思いとどまった。

 ガルフはサーカスを買っておくべきだったかもしれない。BPとオクシデンタルは80年台半ばまでの原油安を乗り切ったが、ガルフは別の石油会社に買収されてしまった。

 石油大手は今また、間近に迫る20ドル台の原油安に直面している。ざっと10年ぶりの安値だ。だが石油大手は今回は、窮地を切り抜けるのにドッグフード販売に甘んじようとはしていない。代わりに見つけたのが、米国産原油の輸出を解禁させることだ。

 米国産の原油禁輸は1975年、OPEC(石油輸出国機構)の禁輸措置に対抗して導入され、苛烈な石油ショックをもたらした。だが今では、過去の遺物とみなされている。輸出が解禁になれば、石油会社は米国産原油を海外の買い手にも売ることができるようになる。

 先週、石油会社の念願がついにかなった。バラク・オバマ大統領が輸出解禁に関する条項を含む2016会計年度(15年10月~16年9月)に署名した。折しも原油価格は、アメリカの暖冬と国際的な供給過剰のせいで30ドル台で低迷、さらに安値を更新する勢いを見せている。アメリカの輸出解禁は、世界の石油価格にはどんな影響を与えるのだろうか。

 米政府は当初、輸出解禁に強硬に反対していた。低炭素経済の実現の妨げになるとして、拒否権の発動までチラつかせていた。だが民主党は、風力発電と太陽光発電、育児保護の税額控除の延長と引き換えに譲歩。共和党は、これを「大きな勝利」とうたう。このためにロビー活動をしてきた10社ほどの石油会社も同様だ。

供給過剰に拍車をかける米国産原油

 輸出解禁とともに、アメリカから大量の原油が海外に流出するのは間違いない。米国内の原油の年末の在庫は史上最高に迫る50万バレル近くなる見込みだ。「かつては在庫が30万バレルになるとそろそろ底を打つと言ったものだ」と、EIAのダグラス・マッキンタイアは言う。だが今は50万バレルになってもだぶついたままだ。天然ガスや石油の生産量を爆発的に増やすことになったシェール革命がこれまでの常識を覆したのだ。この巨大な在庫が、出口を探している。

 アメリカは遠からず、原油の輸入量より輸出量が上回る純輸出国になるだろう。それだけではない。OPECは加盟国同士で熾烈なシェア争いを続けているし、イランも核協議合意で原油輸出を再開しようとしている。今のところ、原油や石油製品の価格が上がりそうな要素は見当たらない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中