最新記事
ニュースデータ

「親より良い生活はできない」日本に求められる新しい人生観

2015年11月10日(火)16時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

 実際に働いている人に尋ねても、「父親を超えられていない」という回答が日本では多い。<図2>は、ISSP(国際社会調査プログラム)が2009年に実施した『社会的不平等に関する国際意識調査』のデータをグラフにしたものだ。

maita151110-chart02.jpg

 日本の30代男性就労者の6割が、「今の仕事の地位レベルは、(自分が)14~16歳の頃の父親よりも低い」と答えている。他国では「父親よりも高い」という回答が多いのと比べると、日本の特異性が際立っている。日本は「子が親を越えられない」社会だ。

 実は子どもの世代は、この現状をよく認識している。一方の親世代はその認識が低く、そこで親子間の軋轢が生じている。親は自分と同等ないしはそれ以上の所得、地位をわが子に望み、子どもの結婚相手にも自分と同等以上の人物を望む。

 しかし、日本の経済成長はとうにピークを越えたのだ。上の2つのグラフはあくまで主観的評価のまとめだが、所得の減少や雇用の非正規化など、客観的な経済条件そのものが大きく変わっている。親の世代は、自分たちが歩んできた人生を子どもの世代が何の苦労もなくたどって来る(来られる)と思ってはいけない。「一人前になる」とか「社会的に成功する」といった、人生を定義する言葉に関しても、親子の世代では認識が異なってくる。

 こうした時代変化の認識を共有することが、世代間の無用な緊張を緩和して、より現状に即したやり方で若年層の自立を促すことに繋がるのではないだろうか。

<資料:ピュー研究所『Global Attitude Survey Spring 2014』ISSP『Social Inequality IV - 2009』

≪この筆者の過去の人気記事≫(過去記事の一覧はこちら
若者の貧困化が「パラサイト・シングル」を増加させる
日本の学生のパソコンスキルは、先進国で最低レベル
生涯未婚率は職業によってこんなに違う

[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中