最新記事

連載「転機の日本経済」(1)

量的緩和の功罪

【小幡績】一方の経済学者が熱烈に称揚し、他方の経済学者が全力で反対した「リフレ政策」が一定の役割を終えた今、日本経済はどう変化し、これから何が起こるかを展望する

2015年6月22日(月)16時10分

ショック療法 黒田日銀総裁の量的緩和は一度しか使えない Thomas Peter-REUTERS

 異次元緩和により、日本経済は変わり、また、変わらなかった。これが異次元緩和による功罪である。良い意味での変化があった。しかし、それで日本経済は大きく変わった、日本経済はこれで安心だ、成長軌道に戻った、という国民の無意識の認識は誤りで、構造的には日本経済は何も変わっていないのである。異次元緩和の最大の罪は、足下の日本経済を異次元の世界に呼び込み、人々を混乱させ、誤解させたことにある。良くも悪くも、異次元の世界になど日本経済は移行できない。そもそも異次元の世界などないのであり、異次元の金融緩和など存在しないのだ。ただ、強烈な金融緩和を行っているだけなのである。

 それにもかかわらず、異次元、とわざわざ自ら命名したのは、白川前日銀総裁の時から、量的緩和は既に行っていたため、黒田日銀総裁が、これからの金融緩和は、これまでと全く異なるのだ、と投資家や一般の人々に売り込みたかったからである。そして、それは確かに、異次元の効果を持った。

 それは、投資家と人々が、過度の悲観主義から脱却し、楽観主義(2014年10月の追加緩和により過度のそれになったが)に移行したことである。

 これで日本の株価は暴騰した。日本の株価はもともと安すぎたのである。絶対的な水準としても、日経平均8000円というのはあり得ない水準だったし、欧米の株価が上昇していく中で、唯一置いて行かれた日本の株価は、相対的に見れば異常な割安水準だったのである。

 これは、ゲーム理論でいうところのフォーカルポイントの移動、要は、全員が悲観に陥っている悲観均衡から、全員が楽観的になっている楽観均衡へ移動した、ということである。株価は常に自己実現する。皆が下がると思えば、皆が売り、だから実際に下がる。そうなると下がるという予想は実現することになる。2012年までの日経平均8000円は、日本株は上がらないと皆が思い、誰も買わなかった。そして実際に上がらなかったから、日本株を後回しにしてアジアの新興国の株、欧米の株を買った投資家は正しく、皆、それに追随した結果、安かったのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ビジネス

米マスターカード、1─3月期増収確保 トランプ関税

ワールド

イラン産石油購入者に「二次的制裁」、トランプ氏が警

ワールド

トランプ氏、2日に26年度予算公表=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中