最新記事

子育て

フェイスブックが「犬の保育園」をつくる理由

ペットの保育園は作れても「人間用の保育園」をつくれない矛盾

2013年10月8日(火)16時48分
マシュー・イグレシアス

規制の壁 豪華な社宅を作ったフェイスブックにさえ保育園には危険すぎた Beck Diefenbach-Reuters

 社員の生活をあらゆる角度からサポートするため、フェイスブック社はシリコンバレー本社の近くに巨大な社員のための住居棟コンプレックスを建設すると発表した。建築費1億2000万ドルを投じ、394世帯が入居できるこの施設には、スポーツバーや美容院、そして社員のペットを預かる「犬の保育園」ができるという。

 だが、社員の生活のサポートに不可欠なのに、この計画に含まれていないものがある。社員の子供たちを預かる保育園だ。

 保育サービスが民間にゆだねられているアメリカでは、まともな保育施設に子供を預けようと思えば法外な金額がかかる。高額な保育料は多くの中流家庭の家計を圧迫し、貧困層がわが子に質の高い保育を受けさせる機会を奪う。これは突き詰めれば、国の存亡にも関わる問題だ。

 なのに、なぜフェイスブック社のような対応が起きるのか。その答えは、カリフォルニア州で保育施設を合法的に運営するための条件を定めた文書をざっと見るだけでわかる。

「食事と食事の間に、すべての子供たちにおやつを提供すること」、おやつには「4大食品群のうち、2つ以上の食品群に属する食品を用いること」といったルールは、本当に法律で定めるべき事柄だろうか。

 保育業界に一定の規制が必要なのも理解できるが、がんじがらめの規制が存在することで、保育園設立のハードルは非常に高くなる。社員のために保育園をつくるのは、ペット預かりセンターをつくる何倍も面倒なのだ。

 規制があれば、法令違反や訴訟のリスクも増える。実際、訴訟に備えて保育施設向けの保険を提供するサービスも山ほど存在している。

 その結果、企業は社内保育園の開設に及び腰になる。社員の福利厚生の一環として無料でアイスクリームを提供し、それが不味いと酷評されても、企業としてはアイスクリーム代が無駄になっただけの話。だが、保育園の運営をめぐって何かミスをすれば、当局からルール違反をとがめられるうえに、訴訟リスクにもさらされる。

 保育ビジネスに特化した企業なら、それもビジネスの一環だ。しかし、フェイスブックはSNS関連のソフト開発の会社だ。社員の子供たちのために保育園をつくるというアイデアは一見よさげに思えるが、弁護士に反対されるだろう。その結果、「ペット保育園」が生まれるわけだ。

© 2013, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑

ワールド

再送イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時

ワールド

再送イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時

ワールド

欧州首脳、中国に貿易均衡と対ロ影響力行使求める 習
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 6

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 7

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中