最新記事

中国

労働者が証言!iPad2工場の実態

アップルの人気商品を委託生産する四川省成都の工場で爆発事故が発生。元凶となった劣悪な労働環境が明らかに

2011年5月30日(月)18時33分
キャスリーン・マクロクリン

不安的中 5月20日に爆発事故が起きた富士康の成都工場では、以前から安全面の問題が指摘されていた Reuters

 中国の台湾系電子製品メーカー「富士康」といえば昨年、広東省深センの工場で従業員の自殺が多発した渦中の企業。劣悪な労働環境が問題となり、巨大な工業都市のビジネスモデルが台無しになる可能性もささやかれる中、同社は四川省成都に新たな工場群を設立。アップルのiPad2の製造を担うこの新工場では、既に10万人近い人々が働いており、来年には50万人に達する可能性もある。

 しかし労働者の権利擁護団体や同社の従業員によれば、成都工場でも以前から安全面の不備が問題視されていた。そして、その不安は見事に的中。5月20日、工場内で3人が死亡する爆発事故が発生した。

 労働者らに言わせれば、工場の設立当時から安全上の課題はあったという。だが、富士康は地元自治体と連携し、好条件をアピールして労働力を集めた。新規採用者には高額の残業代が約束されたうえに、自治体から12〜200ドル相当のボーナスも受け取れるという。しかし実際は、反故にされた約束もあり、社員寮の劣悪な環境や長時間労働、睡眠不足などの問題の改善もみられない。

寝る場所も手を洗う水もない

 リーという名の26歳の女性が、成都工場に就職したのは今年2月。地元自治体が採用活動を代行していたので、安全な仕事だと思ったという。しかし、バスに押し込まれて工場に到着した当日は、寝る場所さえなかった。「激しく動揺して泣き始めた人が大勢いた」と、リーは言う。

 ようやく入れた寮には簡易トイレしかなく、手を洗う水もなかった。リーは富士康での仕事を辞めたいと願っている。労働時間も給与も仕事内容もひどいうえに、粉塵の問題があるからだ。

 20日の爆発も、工場内の至るところに舞う粉塵が原因とされる。香港を拠点とする労働団体「SACOM(企業不正に対抗する学生・研究者)」は何週間も前から、成都工場内の粉塵について警告を発していた。 

 SACOMは5月中旬に富士康に提出した報告書で、成都工場の労働環境について深刻な懸念を伝えていた。「われわれが話を聞いた多くの人々が(アレルギー症状)さえ訴えているが、経営陣は従業員の健康への悪影響を精査していない」

伸び続けるアップルの需要に応えるために

 SACOMは2カ月前に撮影した工場内の映像を公開した。そこには、健康被害を及ぼす可能性がある粉塵にまみれながら、iPadのアルミニウムケースの研磨作業を行う従業員が映っていた。富士康は、安全調査の結果が出るまで、中国国内のすべての工場でこうした研磨作業を行わないとしている。

 粉塵問題は何カ月も前から指摘されていたので、富士康が知らなかったと主張するのは許されない。適切な対策を講じていれば事故は防げたはずだと、SACOMは指摘している。
 
 工場労働者は当然、粉塵の存在を知っていたが、そこに潜む危険性までは意識していなかった。「工場内は空気が悪くて臭う」と、リーの同僚は言う。「従業員の9割は呼吸器系の疾患をかかえているようだ」

 それでも、富士康は成都工場の計画を縮小しないようだ。世界中の大手企業に電子機器を供給し、アップルの中国製製品の大きなシェアを担う富士康は、伸び続ける需要に応じるために生産を拡大している。

 富士康もアップルも、今回取材には応じなかった。両社とも爆発事故に遺憾の意は表明したが、事故に関する報道は制限されている。国営の新華社通信でさえ、事故現場からのリポートを暴力的な手段で妨害された。

 成都工場の安い賃金では、リスクに見合わないと考える労働者は少なくない。「仕事を辞めると家族に伝えたが、母は続けてほしいと言った。この工場は大丈夫と考える(実家の)近所の人々が母を説得したからだ」と、リーは言う。「近所の人たちは政府から安全だと言われている」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中