最新記事

債務問題

南北格差拡大でヨーロッパ分裂の危機

「放漫国家」への財政支援に対する嫌悪感と移民の押し付け合いがユーロ圏の結束を揺さぶっている

2011年5月12日(木)18時04分
ポール・アメス

ユーロに試練 ドイツなどの健全国とギリシャのような債務国の南北格差は広がるばかり(アテネ中心部のシャッター街) John Kolesidis-Reuters

 ギリシャは債務危機で1年前、EU(欧州連合)と国際通貨基金(IMF)から総額1100億ユーロの緊急融資を受けることが決まった。だが今週、それでも足りなくて追加支援が必要かもしれないという話が浮上して、ユーロ相場は荒れに荒れた。しかも先週は、ポルトガルに対する780億ユーロの支援が合意されたばかり。

 借りる方も決して楽ではない。ポルトガルは5%の金利をつけてきちんとお金を返さなければならないし、返済を実行するためには極めて厳しい緊縮を求められ、2013年までマイナス成長が続く可能性が高い。

 だがこれほど厳しい条件が付いた支援であるにも関わらず、ヨーロッパ北部の豊かな国々の間では、EU加盟国への度重なる支援を疑問視する声が日増しに強まっている。自分たちの税金がギリシャとアイルランドに投入される様を目撃してきたEU市民は、「放蕩財政の非主要国」へのさらなる支援にうんざりしている。

「ギリシャとポルトガルを助けたいなら、『ユーロ圏から出て行け』と言うしかない」と、独メルケル政権と連立を組む保守派のキリスト教社会同盟(CSU)のペーター・ガウヴァイラー議員は言う。

 オランダの極右政治家ヘールト・ウィルダースも昨年、こんな発言をしている。「(ギリシャは)卒業パーティーが終わったらすぐに引退生活に入るような国だ。彼らがスブラキ(ギリシャの肉料理)を食べ、(蒸留酒の)ウーゾを飲んでいる間に我々は働いている。ギリシャ人にやる金は1セントもない。スペイン人とポルトガル人も同じだ」

反EUの極右政党が各国で躍進

 ユーロ加盟国で相次ぐ財政危機は、支援金の大半を負担する財政健全国のEU懐疑派に大きな恩恵をもたらしている。オランダでは、ヴィルダス率いる極右政党「自由党」が昨年の国政選挙で得票数を3倍近くに伸ばした。過半数に満たない中道右派の政権党は、自由党の協力がなければ政権を運営できない状態だ。

 先月、総選挙が行われたフィンランドでも、対ポルトガル支援への反対を含む反ユーロ政策を掲げる民族主義政党「真正フィン人党」が突然、第3党に躍進。「パーティーはおしまいだ」と、同党のティモ・ソイニ党首は言う。「なぜフィンランド人が外国人を助ける必要があるんだ? フィンランドから搾取するのは許さない」

 ファンランド議会でEUへの拒否権発動に必要な票を集められれば、真正フィン党がEUのポルトガル救済計画を台無しにすることも理論的には可能だ(現実には、EU支持派である与党の賛成を取り付けないかぎり、無理な話だが)。

 だが、ドイツなどで主流政党からも救済反対の声があがっていることに加えて、真正フィン人党やオランダの自由党、フランスの国民戦線などの極右政党が台頭している現状は、ユーロ圏の結束を揺るがしかねない。域内の富裕国と貧しい国の連携こそ、EUの長年の命綱だったのだが。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、北極圏で石油掘削禁じる23年の措

ワールド

ハンガリー首相、トランプ氏就任でEUでの右派勢力拡

ビジネス

東京市場はトリプル高でスタート、トランプ関税の初日

ワールド

トランプ米大統領、キューバのテロ支援国家指定解除を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブーイングと擁護の声...「PR目的」「キャサリン妃なら非難されない」
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    台湾侵攻にうってつけのバージ(艀)建造が露見、「…
  • 10
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中