最新記事

欧州

フランスを弄ぶサルコジ経済学

金融危機直後、世界各国が緊急バラまき政策に走った時には光輝いて見えた高福祉の「サルコノミクス」が、仏経済を窮地に陥れようとしている理由

2010年1月28日(木)14時00分
トレーシー・マクニコル(パリ支局)

 ニコラ・サルコジ仏大統領(54)は、保守派なのに左派の大物を閣内に引き込み、政策も右に振れたり左に振れたりすることで知られる。その政治手腕は、同世代の政治指導者のなかでも群を抜く。だが、経済手腕に関してはそうはいかない。

 世界が金融危機で揺れた昨年の一時期には、その弱点もかすんだ。当時は、世界中の指導者がこぞってバラマキ政策に熱中し、規則を破り、企業救済を乱発し、国家統制主義者に変身した。つまり、フランス的になったのだ。サルコジは輝く星に見えた。

 だが世界経済が徐々に平常に戻るにつれて、各国は財政規律の復活と構造改革という新たな圧力に直面するだろう。サルコジにとっては頭の痛い問題だ。

 サルコジには政治的野心のために経済をもてあそぶ癖がある。フランスは、手厚い社会保障という緩衝材のおかげで金融危機後の景気後退からいち早く抜け出した。だがその結果、政府は巨額の債務を抱え、平時の状態に復帰できるめどはまったく立っていない。

 EU(欧州連合)はフランスに、10年にはGDP(国内総生産)の8・2%になる見込みの財政赤字を13年までに3%以下に削減するよう勧告した。仏政府は「とてつもなく困難」「非現実的もいいところ」と反発している。

 そして今、サルコジが縁を切ると約束したフランスの悪弊や07年の大統領選で掲げた公約が、欧州2位の経済にさらなる負担をもたらそうとしている。

 トラブルの最初の兆候は「ビッグローン」と呼ばれる新規国債だ。技術革新のための長期の投資資金350億ユーロを調達するための借金で、今月に発行する。慢性的な財政赤字のせいで長期的な投資の余裕がなかったフランスが、将来に備える一助になるとサルコジは言う。だがその投資効果ははっきりせず、赤字が膨らむだけだと批判派は言う。

 この一件は、経済がサルコジの非正統的な政治手法に利用されたときの危うさも示唆している。政府が6月に新規国債による巨額投資計画を発表すると、政敵はその詳細に気を取られて失業問題などの追及はおろそかになった。

唯一の原則はご都合主義

 これこそ典型的なサルコジ経済学、すなわち「サルコノミクス」だ。それが今後フランス経済の足を大きく引っ張りかねない。

 07年の大統領選でサルコジは、硬直化した労働法制や社会保障制度の改革による過去との「決別」を訴えた。当初は、彼には改革をやり遂げるだけの精力と才能があるように見えた。

 だが疑問もあった。彼は市場メカニズムを信じる新自由主義者なのか、それともフランス伝統の国家統制主義者なのか。近代化の必要性を盛んに訴える一方で、彼は財務相だった04年に国家の基幹産業を救済した実績を自慢した。

 右派と左派の両方の発想を取り入れる姿勢は最初、現実主義と映った。だが大統領に権力が集中しチェック機能が働かないフランスには、主義にこだわらないサルコジが経済を短期的な政治目的に利用するのを止める手段がない。

 サルコジは「開放」の名の下にあらゆる政治勢力から人材を引き抜き、アイデアを盗んで政敵を出し抜いてきた。大統領選中には極右の有権者を取り込むため「愛国か、さもなくば国を去れ」と叫び、当選すると、過去最多のマイノリティー(少数派)を入閣させた。野党・社会党からは、ベルナール・クシュネル元保健相とジャック・ラング元教育相という超大物をそれぞれ外相と大統領特使に引き抜いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:平等支えるノルウェー式富裕税、富豪流出で

ワールド

ヒズボラ指導者、イスラエルへの報復攻撃を示唆 司令

ワールド

「オートペン」使用のバイデン氏大統領令、全て無効に

ビジネス

NY外為市場=ドル、週間で7月以来最大下落 利下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中