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米グリーン雇用、統計上の実績はゼロ

景気対策の名目でエコに600億ドルを投じたのに、いったい仕事はどこにある? オバマ政権グリーン・ニューディールの第一人者バン・ジョーンズに聞く

2009年7月29日(水)18時36分
ダニエル・ストーン

数字がない 太陽電池パネルの景気浮揚力は(2007年4月、ニュージャージー州) Tim Shaffer-Reuters

 バラク・オバマ米大統領は今年2月、「グリーン経済」の構築を景気対策の柱の1つに位置づけた。約600億ドルを投じて、再生可能エネルギーを活用し温室効果ガス排出量の少ない経済をつくろうというのだ。ところが、その過程で生まれるはずの「グリーン雇用」は、統計上まだ1つも存在しない。

 そもそもグリーン雇用とは何なのか。「経済に役立つと同時に地球を救う仕事」という大ざっぱな定義があるだけだ。これではどんな解釈も成り立つ。例えば天然ガスは、石油よりクリーンだが持続可能ではない。これはグリーンと言えるのか。このいい加減さのおかげで、果たして本当にエコな雇用が創出されているのか、またエコが本当に経済の救世主になるのか、さっぱりわからない。

 明確な定義が存在しないというのに、米労働統計局は4月、グリーン雇用の統計を取り始めると発表した(客観的データを収集すべき同局が、景気対策の効果をアピールしたいオバマ政権に手を貸すのではないかという疑念も生じている)。本誌は数人の環境保護活動家に取材したが、その結果出てきたグリーン雇用の定義は、元連邦最高裁判事の有名な「わいせつ」定義を思い起こさせるものだった。「見ればそれとわかる」というものだ。

 いったい、オバマ政権のグリーン雇用戦略は有効なのか。同政権の第一人者、政府環境基準会議(CEQ)バン・ジョーンズ上級顧問(グリーン雇用、企業、技術革新担当)に本誌ダニエル・ストーンが話を聞いた。

――いまだにグリーン雇用の客観的な定義がないのはなぜか。
 
 まだ見解が統一されていないからだ。民主主義では珍しいことではない。すべての州と連邦政府の見解がある程度一致するまでにはしばらく時間がかかるだろう。だがこの点では労働省が懸命に努力している。ゴールは見えてきたが、ゴールラインは切っていないというところだ。

――景気対策では再生可能エネルギーとグリーン雇用の創出に多くの予算が割かれているが、具体的にどういった恩恵があるのか。

 この分野の素晴らしいところは、一度軌道にのればどんどんうまくいくことだ。例えば私が今訪れているインディアナ州ではちょうど、建物の耐候性改善を扱う業者の会合が開かれているところだ。通常参加者は700人程度だが、今日は3200人もいる。その多くは最近、技術的な訓練を受けた作業員で、企業や一般家庭の光熱費削減に貢献している。みなやる気満々だ。

(オバマ政権の)景気刺激策を受けて、ビジネス戦略を見直す企業も出てきている。(ドイツの総合電機大手)シーメンスは5月、カンザス州に風力発電設備を建設し数百人を雇用すると発表した。これは(政府の)クリーンエネルギーへの真剣な取り組みを見て、シーメンスが商売になると判断した結果だ。

――そういう個別の事例しかないということか。

 そうだ。具体的な統計はまだ取れていないから、多くの事例として報告されている。例えばミズーリ州のカンザスシティーでは景気対策予算が独創的な方法で使われて、周辺地域や交通機関の耐候性改善に役立っている。景気対策が効果を見せ始めれば、起業家や産業界の態度にも変化が現れるだろう。

 民間セクターの関心が高いことは分かっている。太陽光発電や風力発電は08年の第4四半期まで成長が続いた。景気悪化の影響を最後に受けるのはグリーン業界であり、最初に回復に向かうのもグリーン業界のようだ。

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