最新記事

ウォール街

金融危機モンスターはまだ生きてる

2009年7月28日(火)15時56分
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

FRBはスーパー監督機関ではない

 バーナンキはガイトナーよりはるかに協議会の権限強化に熱心で、「協議会がどんな権限をもつべきか」を議論するよう議会に要請した。「協議会が金融機関による金融取引のバラつきを調整したり、問題を特定して対応策をとる事態もあるかもしれない」

 民主党のマーク・ワーナー上院議員(バージニア州選出)が「現時点ではFRBが事実上のシステミック・リスク監視役であるという点は問題ないか。銀行規制当局だけでなく、証券や商品やその他の規制当局からFRBに日々の取引情報は十分報告されているのか」と質問したときも、バーナンキは躊躇して答えた。「いいえ、FRBはスーパー監督機関からは程遠い」

 オバマが任命したFRB理事のダン・タルーロは、その前日の公聴会で同じ点を強調した。新しい金融監督体制は「FRBの責任範囲の多少の拡大を伴うが、それは斬新的なもので、現在の監督・規制範囲の自然な延長線上にあるものに限られる」

 バーナンキもガイトナーも、検討中の他の施策でもシステミック・リスクを軽減できると主張した。オバマ政権の金融規制改革案では、巨大金融機関は「自己資本規制や流動性規制、リスク管理体制などをより厳格化することで、巨大であることのコスト」を支払わなければならなくなる、とバーナンキは言う。大きいことには追加的なコストがかかることになり、M&A(合併・買収)で規模拡大をねらう経営者も考え直すかもしれない、ということだ。

新種のCDSを止められる組織が必要

 第2に、オバマ政権が提案する銀行監督機関の統合で生まれる新しい監督機関は、連邦預金保険公社(FDIC)が銀行を管理下に置けるのと同じように、巨大金融機関の経営に介入できる。つまり、「金融機関の経営破綻に伴い債権者が損失を蒙る」可能性も高まる、とバーナンキは言う。「両方とも、巨大になることの魅力を薄れさせる手段だ」

 バーナンキはまた、新たな体制の下では「より広範なシステムにとって危険と判断すれば、監督当局は特定の取引を制限することもできる」

 これらすべては助けになるだろう。だが大きいことに追加的なコストがかかるからといって、ウォール街の大手金融機関が小さくなろうと決断することを期待するのは非現実的かもしれない。彼らは、海外の大手金融機関との競争にもさらされているのだ。

 また、誰も引き受けたがらないぼんやりした職責を負わされたシステミック・リスク監督庁が(最終的な組織形態はどう決着しようと)、将来のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)にクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を売ったりJPモルガン・チェースに債務担保証券(CDO)を開発するのを止められるというのも、希望的観測に過ぎない。

 オバマ政権とFRBは、より根本的な変化が求められている事実を無視している。たとえばオバマ政権の経済回復諮問会議議長でFRB元議長ポール・ボルカーは、連邦政府の預金保証を享受している商業銀行にはデリバティブ(金融派生商品)のようなハイリスクの金融商品の自己売買を禁ずるべきだと提案した。だが、財務省とFRBはこれをにべもなく拒絶した。

 現在提案されている程度の改革でも、次の危機の後始末ぐらい改善されるだろう。だが、危機の再発を防止するのは無理だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務長官「ブラード氏と良い話し合い」、次期FRB

ワールド

米・カタール、防衛協力強化協定とりまとめ近い ルビ

ビジネス

TikTok巡り19日の首脳会談で最終合意=米財務

ワールド

カタール空爆でイスラエル非難相次ぐ、国連人権理事会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中