最新記事

ウォール街

金融危機モンスターはまだ生きてる

ゴールドマンが最高益を上げダウが9000ドルを回復しても、複合的巨大金融機関という危機の時限爆弾は放置されたままだ

2009年7月28日(火)15時56分
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

日没の街 今程度の改革案では、危機の再発は防げない Mike Segar-Reuters

 ゴールドマン・サックスとJPモルガン・チェースは巨額の利益を上げ、ダウ工業株30種平均は9000ドルの大台を回復し、バラク・オバマ米大統領も非常時モードを脱して医療保険改革に取り組み始めた。

 ホラームービーは終わったように見える。だがハリウッド映画のお決まりのエンディングのように、誰もが死んだと思ったモンスターは、実はまだ生きている。時期尚早な自己満足のなかで忘れられているが、金融崩壊をもたらした大元の問題はまだ解決されていない。

 それは、金融システムにかくも破壊的な影響をもたらすため潰すことのできない巨大金融機関の取引をいかに把握し、コントロールするかということだ。オバマ政権の発足から6カ月経ったが、いまだにこの問題に対処するための筋の通った提案は行われていないし、ティモシー・ガイトナー財務長官とベン・バーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長の間には深刻な意見の相違がある。

システミック・リスクは誰が監視するのか

 7月22日の上院公聴会で、共和党のボブ・コーカー上院議員(テネシー州選出)は、システミック・リスクを監視するという途方もなく複雑な仕事をやれる人間は誰一人としていないと思うと、バーナンキに言い放った。コーカーはその後の取材で私に言った。「(金融システムそのものを脅かす)システミック・リスクとは何かということと、監督当局はいかなる権限をもつべきかということについては今、答えより疑問のほうがはるかに多い。この一週間でそれが明らかになった」

 その通りだ。ガイトナーは7月24日の下院公聴会で、システミック・リスクはFRBが監督すべきだと6月に発表した金融規制改革案と同じ主張を繰り返した。「FRBの権限を発展させ、相互に密接なつながりをもつ巨大金融機関すべてを監督する責任を一元化すべきだ」と、ガイトナーは証言した。

 また、オバマ政権はシステミック・リスクを監視するため新たに金融サービス監督協議会を作るつもりだとも言った。だがガイトナーによると、同協議会は「最大級で複合的で相互につながりの深い金融機関を監督する責任は負わない」ことも明確にした。協議会には、そうした監督責任を負い、金融危機に対応するだけの「組織力も責任能力もない」からだ。

 ガイトナーは6月にも、「火事を消さなければならないときに協議会を招集している暇はない」と痛烈に核心を突いた。「その役割を果たすのに最適の地位にあるのはFRBだ」

 だがバーナンキは7月24日の下院公聴会で、FRBは超監督機関にはなれないと強い調子で証言した。彼によれば、FRBは銀行持ち株会社を監督する役割に徹するべきだという。銀行持ち株会社というのは、春にストレステスト(資産査定)を受けた大手金融機関19社を指すようだ。「FRBにはシステム全体を広く」監視する「資源も権限もない」と、彼は言う。「FRBが広い意味で経済を監視しているのは明らかだが、今求められているような詳細までは関知していない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ビジネス

外貨準備のドル比率、第3四半期は56.92%に小幅

ビジネス

EXCLUSIVE-エヌビディア、H200の対中輸

ワールド

25年の中国成長率、実際は2─3%台か 公式値の半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中