最新記事

米政府ツイッターのIS残虐情報は嘘だらけ

世界はISISに勝てるか

残虐な人質殺害で世界を震撼させたテロ組織の本質と戦略

2015.05.13

ニューストピックス

米政府ツイッターのIS残虐情報は嘘だらけ

タブロイド紙のでっち上げ記事まで動員、アメリカの対テロプロパガンダの不毛

2015年5月13日(水)15時45分
ジョシュア・キーティング

一進一退 撤退してもネットでの新兵勧誘は続く(ISISが旗だけを残して撤退したイラクのティクリート) REUTERS/Stringer

 イギリスの大衆紙デイリー・イクスプレスのウェブコンテンツは、大半が移民バッシングかセレブ・ゴシップ。だから先月の「月に最大60人もの少女が、下劣なISIS(自称イスラム国、別名ISIL)による虐待後に自殺」という見出しの記事も、いつもと比べれば「まし」なほうだった。

 だが、カナダの匿名の援助関係者だけが情報源で、信憑性は薄いと指摘されているし、4月のこの記事公開後、続報はどこからも出ていない。

 だから、米国務省がISISの勧誘に対抗して運営する公式ツイッター「Think Again, Turn Away(考え直して断れ)」が、この記事にリンクを貼って紹介するのはおかしな話だ。このツイッター・アカウントは米政府がISISのプロパガンダに対抗すべく運用しているものだが、実はデイリー・イクスプレスを取り上げるのはこれが初めてではない。

 同じく4月には、ISISが意志の弱いイギリス人聖戦士を帰国させないよう抑留しているという、これまた疑わしい記事を紹介していた。

 最近も、ISISが200万人の少女の女子割礼(女性器切除)を命じたという1年前の記事を取り上げている。すでに誤報だと徹底的に暴かれている記事だ。

 ISISの蛮行に関しては、十分に裏付けられた事例がすでに多く報じられており、怪しげな噂まで盛んに喧伝する必要があるとは思えない。

 米政府の信頼性を高めることにはならないし(すでにその信頼は落ちるところまで落ちているだろうが......)、シリアで取材に奮闘するジャーナリストたちのことを考えると、いい加減な記事にお墨付きを与える米政府の行動は残念でならない。

 プロパガンダの面で米政府はISISに遅れを取っており、最近、国務省の反テロ・コミュニケーション戦略センターの拡張計画を発表した。「Think Again, Turn Away(考え直して断れ)」などのソーシャルメディア(英語以外の言語もある)運用をまさに担当してきた機関だ。

 しかし、これまでのツイートを見る限り、斬首ビデオを新兵勧誘の目玉にするようなテロ組織に打ち勝つのがいかに難しいかがわかる。米政府のアカウントは、宗教少数派に対する残虐行為や性奴隷の存在をとりわけ強調してきたが、まさにそれこそがISIS志願者に対するセールスポイントになっているのだ。

 また、シリアのアサド政権による残虐行為もよく取り上げるが、確かに非難に値する行為とはいえ、アサド政権に敵対するISISへの加入を思いとどまらせる方法としては、おかしなものと言わざるを得ない。

 米政府による反テロ・コミュニケーションが成功するかはまだわからない。聖戦士たちに彼らの主義主張を広める場を与えるだけだと考える専門家もいる。ISISの暴力性に対するイスラムからの批判やISIS加入を後悔する若者たちの声を紹介することで、何らかの打撃を与えられるかもしれないが、今のところ、その努力は実を結んでいない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中