最新記事

偽ジョブズが語る本当のジョブズ

ジョブズ、天才の素顔

暗黒のエネルギーも含め
彼を伝説たらしめたもの

2011.12.15

ニューストピックス

偽ジョブズが語る本当のジョブズ

5年前に1人の記者が軽い冗談で始めたブログ「偽スティーブ・ジョブズの秘密の日記」は月間アクセス数150万の超人気サイトに。ジョブズ亡き今、筆者が振り返る「風刺の真実」

2011年12月15日(木)12時24分
ダニエル・ライオンズ(本誌テクノロジー担当)

 すべてはただのジョークから始まった。ニューズウィークに入社する前、僕はフォーブス誌の記者で、俗にビッグ・アイアンと呼ばれるIBMなどの企業、つまり法人向けにコンピューターや周辺機器を売る大企業を取材していた。「退屈」と言ったら「退屈」という言葉に失礼なくらい退屈な仕事だった。

 06年当時、ソーシャルメディアの論客たちは企業経営者もブログを書くべきだと盛んに主張していた。実際にブログを始めた経営者もいたが、彼らのブログは読めたものではなかった。

 あるとき仕事で退屈した僕は、経営者ブログのパロディーをやろうと思い付いた。試しに数社の経営者のブログを書いてみて、スティーブ・ジョブズが断然面白いという結論に達した。

 早速グーグルのブロガーを利用してブログを開設。ジョブズになったつもりで、ふざけた文章をアップした。こうして生まれたのが、思い切りクレイジーなブログ「スティーブ・ジョブズの秘密の日記」だ。

「偽スティーブ・ジョブズ」というペンネームで書いたこのブログには、最も多い時期には月150万件のアクセスがあった。スタッフもいなければ、特に宣伝もしなかったことを考えれば、驚異的な数字だ。

 口コミだけでどんどん評判が広がった。僕自身の力は微々たるもので、もっぱらジョブズ人気の威力だった。ブログが話題になって大金を稼げたわけではないが、僕の人生が変わったことは確かだ。

 僕の書き込みはそれなりに受けたらしく、開設から数週間足らずで読者は約1000人になり、コメントをくれる人もいた。何よりうれしかったのは、訪問者の大半がこのブログを気に入ってくれたことだ。

 最初は数週間でやめるつもりでいたが、これがどう化けるかと思うと、やめられなかった。せっかくなら説得力のあるものを書こうと、ジョブズについて書かれた本を何冊も読んで研究した。それが大きな転換点になった。知れば知るほど、彼が信じ難く複雑な人間だと分かってきたからだ。

 生後間もなく養子に出されたこと。里親家庭が裕福ではなかったこと。若いときにヒッピー暮らしをし、悟りを求めてインドに旅して信心深い仏教徒になったこと。そんな男が実業家として巨万の富を手にし、その製品が世界を変えた......。これはすごい宝物に出くわしたぞ、と僕の中のフィクションライターは直感した。偉大なキャラクターという宝物だ。

 近頃は多くの記事がジョブズを聖人に仕立てたがっているが、彼は聖人なんかじゃない。周囲の人間に対して、驚くほど気難しい態度を見せることもあった。私生活でも仕事上でも、愚かな過ちを犯してもいる。

 ジョブズの中には、すさまじい悪魔的な怪物がいた。彼は善でもあれば悪でもあり、光と影、陰と陽を併せ持つ。これら2つの側面が、彼の中で表裏一体を成していた。
  
 彼の中の暗黒のエネルギーが輝かしい才能を生み出したのは疑う余地がない。暗い情熱がなければ、彼はただのコンピューター会社の経営者になっていただろう。ジョブズはただの実業家ではない。彼自身、自分をアーティストだと思っていた。しかも、文化そのものをキャンバスとするアーティストだ。

 偉大な天才の常として、彼にも内なる戦いはあった。自分の秘める暗いエネルギーに負けず、そのパワーを巧みに使いこなす戦い。言うまでもなく、ジョブズはこの戦いに勝った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英アストラゼネカ、中国に150億ドル投資 スターマ

ワールド

米ウェイモの自動運転車、小学校付近で児童と接触 当

ワールド

独首相、ルールに基づく国際秩序強調 「関税の脅しに

ビジネス

中国、不動産業界締め付け策撤廃と報道 関連銘柄急伸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    人民解放軍を弱体化させてでも...習近平が軍幹部を立…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 7
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 10
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中