最新記事

南米の元劣等生は超大国を目指す

ルラ後のブラジル

新大統領で成長は第2ステージへ
BRICsの異端児の実力は

2010.09.28

ニューストピックス

南米の元劣等生は超大国を目指す

アメリカの言いなりにならず、チャベスをたしなめる──ルラ大統領の「スマート外交」が導く大国への道

2010年9月28日(火)12時00分
マック・マーゴリス(リオデジャネイロ支局)

 ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領は波に乗っている。

 ルラは過去数週間の記者会見でゴードン・ブラウン英首相やニコラ・サルコジ仏大統領と肩を並べ、ロンドンで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)では、バラク・オバマ米大統領から「友よ!」という温かい言葉を投げ掛けられた。イギリスのエリザベス女王とは一緒に記念写真を撮ることができた。

 長年にわたって労働組合を率いて「野蛮な資本主義」を非難してきた元労働者のルラが、今や銀行家や企業重役に絶賛されている。「今ではブラジルがIMF(国際通貨基金)に融資しているなんて、しゃれてるじゃないか」と、ルラは記者会見で軽口をたたいた。

 少し前までは誰も予想していなかった事態だ。未熟な民主主義、極度の貧困、一進一退の経済――そんなブラジルを率いる指導者たちは国際舞台で大物と肩を並べるより、救済待ちの列に並ぶのが当たり前とみられていた。

 何十年も失敗を繰り返した末、ついにブラジルは自由市場の民主国家としての地位を確立した。混迷する中南米にはまれな安定性を誇り、独裁者の気まぐれではなく法の支配によって統治されている。

 ブラジルはこれまでになく自己主張するようになっているが、その方法は世界の他の主要国とは大きく異なる。

 過去10年間、ブラジルは特異な地域大国として台頭してきた。アメリカの安全保障の傘に守られ、目立った敵国が周囲にないのを幸いに、経済規模の優位性にものを言わせて近隣諸国に影響力を行使。その一方で、中南米で最も厄介なライバル、ベネズエラを何とか封じ込めてきた。他のどの新興大国とも違う「利口な」超大国だ。

独自の平和外交に尽力して

 中国は台湾海峡に神経をとがらせ、ロシアはカフカス一帯の旧ソ連圏ににらみを利かせてきた。インド軍はパキスタンとの国境からペルシャ湾にまで目を光らせ、アメリカは軍事的影響力を世界中に行使する。だがブラジルは、武力をちらつかせることなく国際舞台での立場を強めている。

 ブラジルは近隣諸国間で紛争が起きると、軍艦や戦車でなく、外交官や弁護士を派遣する。90年代のエクアドルとペルーの紛争や、エクアドル領内に潜伏する左翼ゲリラにコロンビア政府軍が行った08年の越境攻撃などがいい例だ。

 04年に国連の平和維持部隊とハイチの武装勢力の間で緊張が高まった際も、ブラジルは部隊要員を増派する代わりに、ロナウジーニョやロナウドらサッカー選手を送り込んで親善試合を行った。

 ブラジルは新興市場の意見を代弁するようにもなっている。声をそろえて富裕国の農業補助金を非難するよう主要途上国に呼び掛けたのもブラジルだ。現在はブラジル政府の肝いりでBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の大使が毎月ワシントンで会談している。

 「南南協力」を推進するルラ政権は03年の発足以来、アフリカとカリブ諸国を中心に35の大使館を新設。貧困にあえぐハイチでは平和維持活動の先頭に立つ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、31万人に学生ローン免除 美術学校

ワールド

米名門UCLAでパレスチナ支持派と親イスラエル派衝

ビジネス

英シェル、中国の電力市場から撤退 高収益事業に注力

ワールド

中国大型連休、根強い節約志向 初日は移動急増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 8

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 9

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 10

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中