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ブラジルの買収攻勢はアメリカの救世主

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新大統領で成長は第2ステージへ
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2010.09.28

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ブラジルの買収攻勢はアメリカの救世主

中ロよりは反発が少なく、買収先もハイテクよりオールドエコノミー志向と、アメ リカにとって好都合なことだらけ

2010年9月28日(火)12時00分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

[2010年6月24日掲載]

「ブラジルとインドは要マークだ」と、あるアメリカの消費財大手企業(フォーチュン上位500社にも入っている)のCEO(最高経営責任者)が私に言ったのは数カ月前のこと。

 サッカーのワールドカップ(W杯)の話をしているのではない。「次にアメリカの資産を買いあさろうとしているのはどこの国の投資家か?」という問いへの答えだ。

 ほんの数年前まで、経済アナリストが恐れていたのはペルシャ湾岸諸国や中国の政府系ファンド(SWF)が戦略を転換し、投資の対象を米国債から米企業へと変えるという事態だった。だがバブル期の多くの企業買収が失敗に終わったことから、SWFはアメリカ市場参入にやや及び腰となっていた。

 だが最近、ブラジル勢がアメリカに本格参入する気配を見せている。6月15日、ブラジルの食肉大手マルフリグ・アリメントスは、米キーストーン・フーズを12億5000万ドルで買収することで合意。これによりマルフリグは、サブウェイやマクドナルドといったアメリカを代表するファストフードチェーンの主要な納入業者となる。

 トムソン・ロイターの報道によれば、ブラジル企業が米企業(もしくはその資産)を買収した例は昨年10月以降8件に上るという。実際にはもっと多いかもしれない。

ビールや食肉、化学などが主体

 今はブラジル企業にとって投資を始める好機だ。中産階級の増加や順調な一次産品市況、中国との貿易に支えられ、ブラジル経済は世界的な経済危機をくぐり抜け力をつけてきている。

 やりたい放題の投機が行なわれたにも関わらず、金融システムは崩壊しなかった。大手企業のバランスシートは健全で、通貨レアルの対ドル相場も高くなっている。

 世界中のリーグで活躍するブラジルのサッカー選手に負けじと、ブラジル人経営者たちも積極的に世界に打って出るようになってきた。KPMGが世界17カ国の企業幹部について調べたところ「来年の世界経済の行方について世界で最も楽天的なのはブラジルの経営者」との結果が出たという。

 これまでのところ、企業買収の対象は古い業界の大企業が中心だ。ビール会社や精肉業、石油、化学といった、鉄道網が発達した1980年代に全米規模に成長したタイプの企業だ。

 ブラジルの食肉大手JBSは去年の秋、米食肉加工大手のピルグリムズ・プライドを8億ドルで買収。今年1月には米スイフトを14億ドルで傘下に収めた。JBSはアメリカにおいて非常に大きな存在感を示している。

 同じく1月にブラジルの石油大手ペトロブラスは米デボン・エナジーの所有するカスケード油田(メキシコ湾)の採掘権の一部の譲渡を受けた。2月、ブラジルの樹脂メーカーであるブラスケンは米スノコ・ケミカルズのポリプロピレン事業を3億5000万ドルで買収した。

 4月には政府系のブラジル銀行がアメリカにおけるリテール業務の認可を得た。「今後5年間にアメリカ国内に15支店を新規にオープンする。業務拡大のために地域の小規模な銀行を買収することも考えている」と、ブラジル銀行の国際問題担当副社長のアラン・トレドはダウ・ジョーンズに語った。

ウォール街はポルトガル語を習え

 BRIC(ブラジル、ロシア、インド、中国)のうち、ブラジルからの投資であれば、他の3カ国からの投資よりもアメリカのナショナリストや新聞の論説委員の受けはいいだろう。

 タカ派色が強い地域では、中国企業がアメリカの技術や石油企業をカネで買っているとの危機感が高まっている。米財務省は、ロシア企業がインターネットサービス大手のアメリカ・オンライン(AOL)からインスタントメッセージサービス部門のICQを買収しようとしていることに懸念を表明している。

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