最新記事

基地の島の消えないジレンマ

在日米軍の真実

海兵隊の密着取材で見た
オキナワ駐留米兵の知られざる素顔

2010.03.31

ニューストピックス

基地の島の消えないジレンマ

共生を強いられる米軍への反発と依存がもたらす新たな不安

2010年3月31日(水)12時00分
横田 孝(本誌記者)

 テロとの戦いは、沖縄にも犠牲を強いている。在日米軍は5月、テロ対策および市街戦の訓練の目的で、沖縄本島中部にある金武町のキャンプ・ハンセンの訓練区域「レンジ4」内に都市型訓練施設を作った。

 グリーンベレー(米陸軍特殊部隊)が実弾演習を実施しているが、900人ほどの地元住民が暮らす住宅地との距離はわずか300メートル。7月13日以来、約400人の県民が基地の前でデモを行い、演習中止まで続ける構えだ。

 レンジ4は基地問題の「認識ギャップ」を示す最新事例だ。県の関係者は憤りを隠さないが、それは米軍の実弾演習に対してだけではない。「マスコミの取り上げ方が弱い」と、沖縄県基地対策課の職員は批判する。「基地が東京にあったら取り上げるはずなのに、なぜ沖縄だと取り上げないんだ」

 沖縄の人々は過去数十年、「沖縄の問題は日本の問題」と主張してきた。だが基地問題はいまだに沖縄特有の問題と受け取られている。沖縄を占領していたアメリカが基地建設用地を接収したのは50年代前半。半世紀を経てなお、在日米軍施設の75%が、国土の0・6%にすぎない沖縄にある。

 日米両国政府は96年、沖縄の基地の整理縮小で合意(SACO合意)したが、環境への「アセスメント(影響評価)」などが長引き実現が遅れている。多くの県民は、軍関係者が起こす犯罪に恐怖と怒りをいだき、戦闘機の爆音に悩まされる日々だという。

 沖縄県の稲嶺恵一知事は四つの目標を掲げる。海兵隊基地の国内他地域への移設、嘉手納基地の軍用機による騒音公害の軽減、在日米軍の立場を定める日米地位協定の改訂、そしてレンジ4の撤去だ。

 基地の存在そのものに反対する活動家たちは、米軍との共生すら受けつけない。ただ「出ていけ」と言うばかりだ。

 多くの県民にとって事はそれほど単純ではない。県内の完全失業率は、全国平均のほぼ2倍の7・8%。地元経済は公共事業、観光産業、基地の「3K」に立脚しているとされ、そのうち基地は県民総所得の約5%を占める。

 一方、基地のためにビジネスの機会が失われているとの意見もある。用地には本来、別の使い道があるはずとの主張だ。問題は、基地への依存と決別し経済的に自立する覚悟が県民にあるかどうかだ。

県民が触れたがらない現実

 基地問題の論点はずっと以前からほとんど変わっていない。日米の政府高官は、東アジアの安全保障にとって地政学的に重要な沖縄を手放したくないと考えている。朝鮮半島までグアム島からだと戦闘機で3時間かかるが、沖縄の嘉手納基地からはわずか1時間。県民にいわせれば、そんなことは自分たちには関係ない。日本政府と米軍の理屈にすぎないと、基地対策課の職員は憤る。

 大半の全国メディアは、米軍再編で沖縄の負担は減るとの見通しを伝えている。長期にわたって友好的に米軍を駐留させたい考えの米政府は、県民感情に配慮して米軍の縮小を検討しているが、40代後半のある活動家はいぶかる。「まったく期待していない。再編とは基地を強化する意味だし、再編が基地の負担を軽減すると言っているが、ありえない話だ。米軍が自分たちに都合の悪いことをするわけがない」

 基地で働く8500人余りの県民や、米軍と取引のある業者にとって基地縮小はより切実だ。自分たちは米軍をサポートすることで日本の安全保障に貢献しているし、基地なしでは生活が成り立たないと彼らは主張する。「働く場が限られているし、いやが応でも職場は米軍基地になってしまう」と、全駐留軍労働組合の照屋恒夫・沖縄本部執行委員長は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベセント米財務長官、インドに対する追加関税撤廃の可

ワールド

米、嵐で16万戸超が停電・数千便が欠航 異常な低温

ワールド

市場の投機的、異常な動きには打つべき手を打っていく

ワールド

米ミネアポリスで連邦捜査官が市民射殺 移民取り締ま
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 3
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投稿したアメリカを嘲笑する動画にネット爆笑
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 8
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 9
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 10
    「これは違法レベル...」飛行機で「史上最悪のマナー…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 9
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中