最新記事

亀井金融相は少しも怖くない

オブザーヴィング
鳩山政権

話題の日本政治学者
トバイアス・ハリスが現在進行形の
「鳩山革命」を分析する

2009.10.26

ニューストピックス

亀井金融相は少しも怖くない

臆することなく政策通に権限委譲した鳩山の組閣は見事だった。入閣した亀井と福島の力も限定的だ

2009年10月26日(月)15時31分

[2009年9月17日更新]

 9月16日、ついに発表された鳩山新内閣の顔ぶれは、なかなか印象的だった。

 民主党内の各グループのバランスに配慮し、ベテラン議員を起用した人事について、読売新聞は「安全運転」で政権運営に臨もうとしていると評した

 麻生太郎前首相の乱暴な運転の後に、安全運転の内閣が誕生したことが悪いとでも言いたいのだろうか。

 各グループから幅広く人材を起用したのは正しい判断だ。閣内で活発な議論が行われるし、入閣できなかった大物議員が問題を引き起こす可能性も少なくなる(反主流派のリーダー格である野田佳彦は入閣できず、不満をもらしていると伝えられるが、野田グループに属する議員は多くない)。

 社民党党首の福島瑞穂は消費者・少子化担当相に就任。国民新党代表の亀井静香は当初、防衛相と報じられて日米関係の悪化を懸念する声が上がったが、金融・郵政改革担当大臣に落ち着いた。亀井はこのポストに大満足で、「パーフェクト」だと語った。

亀井・福島の影響力は限定的

 ただし、郵政事業は引き続き総務省の管轄であり、亀井が日本郵政の処遇にどのような役割を果たすのかは明らかでない。結局、大した権限を与えられないまま大臣の椅子を確保しただけということもありうる。

 毎日新聞は、構造改革に反対する亀井が金融庁のトップに立つことを不安視する金融関係者の声を伝えた。ただし、亀井には金融や投資分野での権限はほとんどない。また、今年5月に「次の内閣」財務相だった中川正春が、民主党が政権を握ったら日本はドル建て米国債の購入を控え、円建て米国債(サムライ債)しか買わないと発言した際に、公式の発言でないとオバマ政権にとりなしたのも亀井だった。

 経済学者の池田信夫は、亀井が80年代から闇金融の怪しげな株取引に関与していた件を例に挙げ、亀井の入閣は鳩山政権の先行きにとって不吉な兆しだと論じた。私にはその噂の真偽はわからないが、池田の見解には同意できない点がある。

 池田に言わせれば、鳩山は亀井をコントロールするのに苦労するうえ、亀井が「日本経済を破壊する爆弾」になるという。だが私は、亀井も福島も新政権で大した存在感を発揮できないと思う。どちらのポストもさほど重要ではないし、民主党は全閣僚が賛成しなければ意思決定ができないという原則を見直す予定であり、2人には閣議決定を止める力はない。

 社民党と国民新党が法案に反対すれば、参議院で法案通過を阻止することは可能だ。とはいえ、党首が政策立案に当初から関与している以上、参院でもめるケースは少ないはずだ。

「大統領」より「議長」型の首相に

 政策決定プロセスを効率化するためにも、福島と亀井を入閣させるのは理にかなっている。さらに、民主党は来年の参院選以降も両党との連携が必要かもしれない。

 民主党はほとんど犠牲を払うことなく3党連立を確実にできたわけで、今のところ福島と亀井の入閣に対する懸念は大げさすぎると言えそうだ。

 鳩山の組閣は見事だったと思う。自分より政策に詳しい人材や党内で独自路線を行く議員にも、彼は臆することなく権限を委譲した。閣内に鳩山の「部下」はおらず、首相に平気で異議を唱える閣僚がそろっている。鳩山が選んだのは、政治家人生の大半を民主党で過ごし、行政改革に熱心に取り組み、小沢一郎に依存していない有能な政治家たちだ。

 私がウォール・ストリート紙に語ったように、鳩山首相は「大統領というより委員会の議長」のような存在になるだろう。彼の役割は、必要に応じて閣内の議論に介入し、重要な政策課題を設定して閣議をまとめること。鳩山は自分の政策を内閣に押し付け、従うよう閣僚に要求するような指導者にはならないはずだ。

 組閣を見るかぎり、鳩山政権は成功に向けて順調なスタートを切ったと言えそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシア製品への新たな米関税率、8月1日発表=首

ビジネス

中国、エヌビディア「H20」のセキュリティーリスク

ワールド

キーウ空爆で6人死亡、6歳男児と母親も 82人負傷

ビジネス

石破首相、自動車メーカーと意見交換 感謝の一方で更
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中