最新記事

オバマ医療保険改革はずっこけるかも

米医療保険改革

オバマ政権の「国民皆保険」構想に
立ちはだかるこれだけの難題

2009.07.21

ニューストピックス

オバマ医療保険改革はずっこけるかも

オバマが懸命に議会に売り込む医療保険改革法案は、「改革」とは程遠い代物だ

2009年7月21日(火)17時15分
ハワード・ファインマン(ワシントン支局)

転覆寸前 医療保険改革の必要性を熱く語るオバマだが(7月20日、ワシントン) Jason Reed-Reuters

[2009年7月21日ウェブ掲載]

 バラク・オバマ米大統領は政治の波に乗るコツを心得ている。サーフィン大国のハワイで育ったせいだろう。彼は自分の手で歴史をつくることを切望してもいる。学生時代ハーバード・ロー・レビュー誌の編集長を務めたせいだろう。この経験のおかげで、ケニアとカンザス州出身の両親の息子が大統領になって新たな歴史をつくれることに気付いたからだ。

 オバマは今、この2つの能力を同時に試されている。絶好のタイミングで波に乗って歴史をつくれるのか。

 実のところ、オバマはサーフボードから今にも落っこちそうだ。原因は医療保険改革。タイミングがよくないうえ、少なくともこれまで公開された彼の計画を見る限り「改革」と呼べる代物ではないからだ。

 機運を逃すのを恐れるオバマとその側近は、8月の議会休会前に上院が1000ページ以上の法案を通さざるを得ないように切迫感をあおっている。私はこの件に深く首を突っ込んでいる民主党議員に、上院は法案を通すだろうかと尋ねてみた。

「その確率はますます小さくなっている」と彼は言う。医療改革が死んだということではない。ただ、これだけは言える。今秋には医療改革をめぐる激しい国民的議論が起こり、その結果がどうなるかはまったく分からないのだ。

 タイミングが悪い理由は、この不況。おかげで連邦予算にはより大きな負荷がかかり、注目が集まる。数十年先には財政赤字を解消する(いわゆる「上昇曲線を折り曲げる」)はずの医療保険改革も困難になっている。

 オバマは医療保険改革を道徳面と財政面の両方から売り込む必要があることを分かっている。つまり国家破綻に陥って再起不能になるのを回避するには、医療費を制御するしかないということだ。

保険会社をもうけさせる法案

 だが、これまで議会に提出された3つの法案は、いずれも財政赤字を解消するどころか増大させる。無党派層を中心に長期の財政赤字に対する不安が深まっているため、最良の状況下でも実現困難な医療改革がさらに難しくなっている。

 ロバート・ギブス大統領報道官は、3法案には「上昇曲線を折り曲げる」条項が散りばめられているが、機能させるためには1つの法案に統合させる必要があると私に語った。だが別の政治的問題がある。「上昇曲線を折り曲げる」方策は、さらなる歳出削減ではなく、増税による歳入増なのだ。

 オバマは自らの最終案に予算がつくようにすると誓っている。つまり長期的な財政赤字を増やさないというのだが、これはオバマ自身やピーター・オルスザグ行政管理予算局長が当初目指していたものからは程遠い。少なくとも「下降曲線」ではない。もしオバマが医療改革が財政的に不可欠だと主張するつもりなら、医療費削減によって節約できる額を示すべきだ。これまでのところ、そんな数字は出されていない。

 医療保険改革の波が衰えつつある2つ目の理由は、これまでに出された3法案が本来の意味での「改革」とは言えないことだ。

 当初の狙いは、過度に複雑なシステム全体を再考し、医療改善と支出削減を同時に達成するため、国民の医療に対する考え方を抜本的に変えようというものだった。実現の道はあるはずだ。だが3法案はめちゃくちゃなシステムを見直すというよりも、関係業界の買収を狙っているようにしか見えない。

 保険会社がそのいい例だ。確かに、保険会社は既往疾患のある人にも保険を売るように義務付けられるだろう。だが業界はより厳しい規制と引き換えに莫大な見返りを手にする。政府がすべての国民に保険商品を買えと命じるからだ。保険業界が議会の動きを賞賛する広告を出しているのもうなずける。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中