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2009.07.17

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『ザ・ソプラノズ』 ゴッドマザーの新たな旅立ち

「極妻」からキレる看護師へ転身するイーディー・ファルコの控えめな素顔

2009年7月17日(金)12時32分
ジョシュア・オルストン(エンターテインメント担当)

 アメリカのテレビ史上最も影響力のあるファミリードラマ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』で、マフィアのボスの妻にして2児の母でもあるカーメラを演じたイーディー・ファルコ(45)。いまだにそのイメージで見られるのは構わないが、「よくいる母親」の1人に数えられることを彼女は嫌う。

 そう、子を持つことが理解ある奉仕者と自分勝手なエゴイストを分ける「人間性の境界線」になると考える独り善がりなママたちのことだ。ファルコはそんなタイプではない。それでも言わずにいられないことがある。「どう聞こえるか知ってるから口にするのは気が引けるけど、私にとって母親業は人生で最もきつい大仕事。とてつもなく意義深い体験よ」

 エミー賞3回、ゴールデングローブ賞2回の栄冠に輝き、乳癌を克服した女性の言葉にはやはり重みがある。養子に迎えた息子のアンダーソン(4)と娘のメイシー(1)はかなりのやんちゃをしているに違いない。ファルコの子供たちのように強く望まれていた場合でも、子供というものは親の人生に足を踏み入れて予想外に物事を引っかき回すものなのだ。

 ファルコに養子がいるのを知らなかったとしても無理はない。有名人であっても注目を浴びたり、騒動を起こしたりせずに養子をもらうことは可能なのだ。一流の女優でも目立たずにいられるものならそうしたいと考えているファルコであればなおさらだろう。

 だが今後はそれも難しくなるだろう。米ケーブル局ショータイムで6月にスタートした新ドラマ『ナース・ジャッキー』の宣伝で、中指の代わりに注射器を挑発的に突き立てたファルコの姿が街のあちこちで目に付く。

 今回のドラマの主人公ジャッキーはニューヨークに暮らす看護師で、超有能だが相当な変わり者。ファルコにとって、記憶に残る現代の母親像を再び築き上げるチャンスにもなるかもしれない。

未婚で養子を2人迎えて

 ファルコが母としての道を歩み始めたのは04年。初期の乳癌との闘いを終え、ボリュームのあるヘアスタイルや派手なネイルをして引き続きカーメラを演じている時期だった。「一大事をくぐり抜け、真剣な恋愛もいろいろしてきたけど実らずに終わった」と、ファルコは言う。「恋愛中も子供のことは考えていた。でも破局しても子供が欲しい気持ちは募るばかり。そこでひらめいたの。書類を書いて小切手を切ればいいんだって」

 1年後にはファルコは男の子の赤ちゃんを、3年後にはその妹を腕に抱いていた。

 恋愛から結婚、そして家族へという古風な考え方が頭をよぎらなかったわけではないが、昔からそれほどこだわりはなかった。ジャズドラマーの父と女優だった母の関係も短命に終わったし、ファルコ家の人間は結婚生活がなかなか長続きしないのだという。

 だから自分は賢明な選択をしたと、ファルコは信じている。「そんなつもりではなかったのに子供を1人で育てている人が大勢いる。私は恐ろしくてできない」と、ファルコは言う。「共同作業だと思っていたものが崩れるのよ。子育てだけでも大変なのに、破局の苦しみまで加わるなんて。想像できない。私は自分1人だと分かった上でこの道に進んだ」

 ファルコとの共通点はカーメラよりジャッキーのほうが多い。ジャッキーは外見にこだわらず、勤勉な労働が救済につながると信じているブルーカラーの女性だ。

 だがジャッキーは徹底した変人で、おしゃべりな研修中の看護師には「無駄話はお断り。無口で性格が悪いのが好みなの」とぴしゃり。一方のファルコは温かい人柄を抑えることなくのぞかせる。まじめな話をしていても、ブロンドの少年がよちよち通りかかれば、「うちの子に似てる!」とにっこり。「といっても後頭部だけど」

 さらにファルコの人生には男性が1人欠けているが、ジャッキーの場合は1人多い。バーテンダーの夫以外に薬剤師の愛人エディがいて、この男が性欲と鎮痛剤への依存症を満たしてくれる。

仕事だけじゃない生き方

 エディを演じるポール・シュルツとは、ニューヨーク州立大学パーチェス校で出会って以来の友人同士。実生活では依存症にまつわる裏事情がある。「ある晩泥酔した彼女が僕のところへ来て『助けが必要なの』と言った」とシュルツ(彼は『ザ・ソプラノズ』では人妻であるカーメラの気持ちをぐらつかせる神父を演じた)。ファルコはシュルツに断酒会を紹介され、その後17年間禁酒している。

 「彼女は真剣に物事に取り組む。だから仕事でも成功し、(依存症から)うまく回復した。こうと決めたら全力投球だ」と語るシュルツは、ファルコが養子を迎えると聞いても驚かなかった。どれほど度胸のある女性か知っていたからだ。以前、2人はレストランで一緒に給仕をしていたが、ファルコはこの仕事が苦手で、「どんなに貧乏で借金を背負っても演技以外の仕事はしないと腹をくくり、僕にもそうしろと説得した」。

 最近は優先順位が変化した。一番大切なのは子供たちと犬に愛情を注ぐこと。こうした姿勢は逆に仕事のプラスになっているとファルコは考える。「前ほど仕事に振り回されていない。そうなると、好きだから仕事をするようになる。自分にとって意味のあることが、それしかないのとは違うの」

 確かにファルコはジャッキーを楽しんで演じながら、番組の成否については健全な見方をしている。「反響があればうれしい。そうでなければまた先へ進む。がっかりはするだろうけど、それが人生よ」

 予期せぬラストが待ち受けるドラマの世界をよく知る女優ならではの含蓄ある言葉だ。

[2009年6月24日号掲載]

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