最新記事

環境も経済も救う緑のニューディール

コペンハーゲン会議
への道

CO2削減と経済成長のせめぎあい
ポスト京都議定書の行方は?

2009.07.03

ニューストピックス

環境も経済も救う緑のニューディール

金融危機は「グリーン」な投資で脱出できると世界の指導者たちが主張しはじめた理由

2009年7月3日(金)12時32分
クリストファー・ディッキー(パリ支局長)、トレーシー・マクニコル(パリ支局)(ワシントン支局)

 エッフェル塔からそう遠くないパリの賃貸オフィスで、国際エネルギー機関(IEA)のアナリストが、石油生産と温室効果ガス排出量の数字をにらみ続けている。

 彼らの仕事は、OECD(経済協力開発機構)加盟30カ国のエネルギー供給を監視すること。書き上げる報告書には、たいてい無味乾燥な専門用語が並ぶ。

 そんななかに一つだけ、なんとも不吉な響きをもちはじめた言葉がある----「従来どおり」。最近はこの言葉が、別の意味に読める。「世界の終わりが近づいた」と。

 これまでもIEAは緊迫感のある提言を行ってきた。自動車利用や工場の稼働の仕方を大きく変え、グローバル経済のあり方を根本から考え直さなくてはならないと主張してきた。最新の包括的な報告書では「エネルギーの供給と利用法に関するグローバル革命」が必要だと宣言している。

 だが金融危機が世界を襲ったことで、各国の政財界の指導者たちの間には「今は環境対策どころではない」という空気が強まってきた。EU(欧州連合)ではイタリアや東欧諸国の苦境によって、すでに合意した環境保護行動案が崩壊しかねない。

 アメリカでは、金融機関の破綻が相次ぎ、住宅の差し押さえと失業者が増えたことで、大胆だったベンチャーキャピタリストもすっかり臆病になっている。数カ月前なら、地球にやさしい技術を開発する巨大プロジェクトに資金を出そうという投資家はけっこういた。だが今は、投資規模の縮小は免れず、下手をするとまったく資金が集まらないこともあるという。

 中国の指導者は、北京五輪の期間中は環境保護に細かく気を配っていた。しかし経済成長率が1けた台に落ち込みそうな今は、もう環境対策など忘れたいと思っているかもしれない。

 絶望的と言いたくなるほどの暗いムード。だが、そんななかにも力強い声が聞こえている。今こそIEAが求める「グローバル革命」に着手すべきだ、という声である。数十年後に起こりうる地球の破滅を防ぐためだけではない。世界経済を不況から脱出させ、今より強固な基盤をつくり上げるはずみをもたらすかもしれないからだ。

 イギリスのゴードン・ブラウン首相、フランスのニコラ・サルコジ大統領、そしてアメリカのバラク・オバマ次期大統領は、潘基文国連事務総長が「緑のニューディール」と呼ぶ取り組みを支持している。フランクリン・ルーズベルト米大統領が大恐慌期に繰り出した経済再生プログラムの手法を借りて、グローバル経済の再建と再構築をめざそうというものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月

ワールド

米朝首脳会談、来年3月以降行われる可能性 韓国情報

ワールド

米国民の約半数、巨額の貿易赤字を「緊急事態」と認識
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中