最新記事

田村佳子(活動家)<br>笹本妙子(活動家)

世界が尊敬する
日本人 part2

文化と時代を超えたジャパニーズたち
最新版は7月1日発売号に掲載!

2009.06.29

ニューストピックス

田村佳子(活動家)
笹本妙子(活動家)

戦争捕虜の魂を救う

2009年6月29日(月)15時39分
コリン・ジョイス

Colin Joyce

 祖国ではほとんど知られていない女性に、イギリスの女王が勲章を贈るのは稀有なこと。だが勲章を贈られた田村佳子と笹本妙子は、まさに稀有な存在だった。

 神奈川県に住む2人はこの30年、第2次大戦中に日本に収容されていた戦争捕虜に関する情報を集めてきた。記録を隠し、過去の罪を忘れようとする風潮のなか、事実の究明は困難を極めた。

 元捕虜たちの苦悩を癒やすため情報収集に「うむことなく献身」してきた2人に、駐日英大使館は06年5月、女王に代わって名誉大英勲章MBEを授与した。謙虚な2人は、自分たちの所属する団体「POW(戦争捕虜)研究会」全体に対する叙勲と受け止めている。

 研究会ネットワークの長年の調査が実り、昨年ようやく英語のデータベースを公開できた。収容所で死亡した捕虜の記録など、貴重な情報が提供されている。

 イギリスのワーウィックに住むリチャード・ブルッカーもその恩恵を受けた1人だ。ブルッカーは日本で亡くなった母方の祖父の足跡をずっと探ってきた。「 公表された情報はどこにもなかった。データベースで初めて詳細がわかったときは涙が出た。幼くして父親を失った母や祖父を知らない私にとって、(彼女たちは)英雄だ」

 田村がこの問題に関心をもったのは偶然だった。結婚して横浜に住むことになった彼女は、横浜・保土ヶ谷の英連邦戦死者墓地に大勢の若い兵士が眠っていることに衝撃を受けた。地元の人たちも、なぜここに墓地があるのか知らなかった。田村は笹本らとともに、多くの日本人にこの問題を知ってもらおうと奮闘してきた。

 2人は日本を訪れた元捕虜や遺族のガイド役も務めてきた。ブルッカーも母親とともに、2人の案内で祖父がいた収容所の跡地と保土ヶ谷の墓地を訪ねた。

 「私たちのささやかな努力で、人々の心の傷が少しでも和らぐならありがたい」と、田村は言う。彼女たちの努力は決してささやかではない。イギリス女王もその成果を認めている。

[2006年10月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブタペスト、米・ロ・ウ3者会談の開催地か ホワイト

ワールド

首都ワシントン州兵派遣、共和党6州が1100人 ト

ワールド

米政権、インテル株取得検討を確認 出資は「経営安定

ワールド

プーチン氏が「取引望まない可能性も」とトランプ氏、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル」を建設中の国は?
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 10
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中