最新記事

中国はもっと借金すべきだ

中国の真実

建国60周年を迎える巨大国家の
変わりゆく実像

2009.04.24

ニューストピックス

中国はもっと借金すべきだ

金融危機に直面して倹約の精神を学ぶ欧米とは逆に、「貸し渋り」の解消で内需活性化をめざせ

2009年4月24日(金)18時48分
バレット・シェリダン

国内融資が増えれば内需が拡大し、人民元の値上がりが容認される?
Nicky Loh-Reuters

 現在の金融危機から学べる教訓があるとすれば、融資と借り入れのシステムが暴走して制御不能に陥ったときの恐ろしさだろう。欧米は融資の額を減らす必要がある。

 もちろん貸し手がほとんどいない現在ではなく、過去10年間に比べての話。この間、銀行は自己資金1ドル当たり26ドルを借り入れ、アメリカの平均的家族は12万1000ドルの住宅ローンをかかえていた。

 ただし、この教訓を無視したほうがいい国もある。欧米は新しい倹約の精神を学んでいるが、中国はかつてのシティグループやJPモルガン・チェースといった欧米金融機関のやり方をある程度まで取り入れるべきだ(言うまでもなく、やりすぎは禁物だが)。中国の銀行は融資を増やす必要がある。それも大量に、だ。銀行の融資と融資を受ける個人や企業が増えれば、中国は現在の経済危機に対処しやすくなる。

 中国の銀行は規模が大きい。たとえば中国工商銀行は世界第6位の企業で、資産評価額はマイクロソフトを上回る。にもかかわらず、中国の銀行は貸出額が少ない。しかも融資先のほとんどは大企業か国有企業。米証券大手モルガン・スタンレーの調査によれば、08年12月の一般世帯向け融資は全体の7%にすぎない。

 この状況は中国政府の意図的な政策の結果だ。中国経済が急成長を続けている間、当局は銀行融資の総量規制を実施してインフレを抑え、物価を安定させてきた。だが世界経済危機の今、インフレの懸念はなくなった。中国の金融当局は「銀行の足かせをはずす」べきだと、米シンクタンク、外交評議会の経済専門家ブラッド・セッツァーは言う。

 セッツァーら専門家によれば、融資規制は想定外の問題をいくつも引き起こした。まず、政府の規制で預金の一部しか融資に回せない銀行は、預金の利息をすずめの涙ほどの額に抑えている。その結果、中国企業は「好景気の時期に相当な荒稼ぎをした」が、利益を銀行に預けず、投資などに回してしまったと、米コーネル大学の経済学者エスワール・プラサドは指摘する。「(投資の)利益率がどんなに低くても、ほぼゼロ(の利息)よりましだからだ」

人民元値上がりも容認

 融資規制は一般世帯の家計にも悪影響を及ぼしている。中国人は貯蓄率が高く、収入の4分の1を預金するという推定もある。社会的なセーフティーネットが整っていないことが大きな理由だ。中国では医療費が全額自己負担となる場合が多いため、非常時の資金をためておこうとする傾向が強い。

 もし中国がシティグループのようにクレジットカードと融資枠を全国民にばらまけば、こうした貯蓄の必要性は低下する。家計が苦しい世帯は、いざというときにクレジットカードや銀行からの借り入れに頼れるからだ。その結果、消費財の売り上げが増え、減速した経済を再び活性化させるだろう。

 中国国内の融資が増えれば、欧米にも恩恵をもたらす可能性がある。中国は輸出産業の競争力をつけるため、長いこと人民元の為替レートを人為的に低く抑えてきた。そのため欧米の製品は大半の中国人には手が出せないほど割高になり、米企業は中国の為替操作に不満の声を上げている。

 中国の融資増加はGDP(国内総生産)の3分の1程度だった消費市場の拡大につながり、中国の輸出企業の内需志向を強める。そうなれば当局が人民元の値上がりを容認する可能性が高まり、中国の輸入が増加して米中間の懸案の一つが解決するかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次

ワールド

トランプ大統領、ベネズエラとの戦争否定せず NBC

ワールド

プーチン氏、凍結資産巡りEU批判 「主要産油国の外
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中