コラム

米中貿易「第1段階合意」が中国の完敗である理由

2019年12月16日(月)12時00分

13日に北京で会見する財政副大臣の廖岷。重要な会見のはずなのに出席者はいずれも副大臣級ばかりだった Jason Lee-REUTERS

<先週末の深夜、突然発表された米中貿易協議「第1段階」合意のニュースは世界を驚かせた。どちらがより多くを勝ち取ったのか公式発表では曖昧なままだったが、これまでの経緯と合意項目を注意深く読み解けば、中国にとっての「不平等条約」であることは明白だ>

今月13日に発表された米中貿易協議「第1段階」合意は、中国側による全面的な譲歩の結果である。そのことは、合意に関する中国側の声明文からは簡単に読み取ることができる。

13日深夜に発表された中国側の公式声明によると、米中間の合意項目は(1)知的財産権(2)技術移転(3)食品と農産物(4)金融サービス(5)為替とその透明度(6)貿易拡大(7)双方による査定・評価と紛争処理の7項目に及ぶという。

7項目合意の具体的内容について中国側の声明は直接に触れていない。しかし、今までの米中貿易協議の経過と内容からすれば、この7項目合意の内容は概ね推察することができよう。要するに、7項目合意の内容は全て、中国側がアメリカ側からの要求を飲んでアメリカ側に譲歩した結果である。

7つの項目を1つ1つ分析すると......

まずは(1)の知的財産権。今までの貿易協議において、アメリカ側は一貫して中国による外国企業や研究機関の知的財産権侵害を問題視して、中国側に知的財産権の保護を求めてきた。第1段階合意がこの項目を含んでいることは当然、中国側がアメリカ側の要求に応じて知的財産権への保護を約束したことを意味する。

(2)の技術移転は要するに「技術移転の強要」のこと。中国は今までに外国企業に対して技術の移転を強要してきたが、アメリカ側は貿易協議においてその是正を中国側に強く求めている。従って(2)に関する米中間合意の内容は当然、中国側がこの要求に応じて外国企業に対する技術移転の強要を止めることを承諾したことであろう。

(3)食品と農産物の内容は簡単明瞭で、要するに中国側がアメリカ側の要求に応じてアメリカから大豆や豚肉などの食品・農産物を大量に購入することである。

(4)金融サービスの項目は、アメリカ側が求めている中国国内の金融サービスの外資に対する開放であるが、この項目で合意に達したことは、中国側がアメリカに対して金融サービス業の対外開放の拡大を約束したことを意味する。

(5)為替とその透明度は、アメリカ側がずっと問題視してきた中国政府による為替操作の問題を指している。この項目に関する合意は、中国側がこの要求に応じて為替の操作を控えることやその透明性を高めることであろう。

(6)貿易拡大に関しては、中国側の発表を見るだけで何を意味するのかがよく分からないが、同じ13日にアメリカ政府は、中国がアメリカから農産物などの輸入を今後2年間で2000億ドル(約22兆円)増やすことで同意したと発表した。つまり中国側はアメリカ側の要求に応じてアメリカからの輸入を大幅に増やすことを約束した、ということである。

以上は、(1)から(6)までの米中間合意の概要であるが、そこには1つの共通点があることにすぐ気がつく。この共通点とは要するに、(1)から(6)までの合意項目の全ては、中国側がアメリカ側の要求に応じて何かを約束したのであってその逆ではない、ということである。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ウクライナ陸軍の著名部隊、隊列強化へ独自

ワールド

中国の過剰生産能力による世界経済への悪影響を懸念=

ワールド

アングル:太陽光発電大国オーストラリア、さらなる普

ビジネス

米国株式市場=S&Pとダウ再び最高値、エヌビディア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:開戦2年 ウクライナが敗れる日
特集:開戦2年 ウクライナが敗れる日
2024年2月27日号(2/20発売)

アメリカの支援が途絶えればウクライナ軍は持たない。「ロシア勝利」後の恐怖の地政学とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ビートルズの伝説が始まったあの「初登場」から60年...熱狂の中、本人たちは「卑下」していた

  • 3

    ゴールドカードだけの感動体験を...新時代に「新たな価値」を生む新ゴールドカードを、アメックスが発表

  • 4

    大雪で車が立ち往生しても助けなし...「不信の国」中…

  • 5

    「自分が望むようになっている」...メーガン妃の「疎…

  • 6

    「引退すべき」「チケット高いのに...」マドンナが「…

  • 7

    メーガン妃は今でも「プリンセス」なのか?...結婚で…

  • 8

    対戦車ミサイルがロシア兵に直撃...衝撃映像に「プロ…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    胸元あらわなコルセットドレス...テイラー・スウィフ…

  • 1

    ウクライナ攻勢を強めるロシアのドローン攻撃を、迎撃システム「バンパイア」が防ぐ「初の映像」が公開

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    【アウディーイウカ陥落】ロシアの近接航空支援や滑空爆弾に対しウクライナ軍の空域には穴が開いていた

  • 4

    日本人は知らない、能登半島地震に向ける中国人の視線

  • 5

    大雪で車が立ち往生しても助けなし...「不信の国」中…

  • 6

    ウクライナ戦争開戦から2年、NATO軍の元最高司令官が…

  • 7

    プーチンの顔面に「異変」が...「頬どうした?」と話…

  • 8

    米メディアのインタビュー中、プーチン大統領の「足…

  • 9

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    日本人は知らない、能登半島地震に向ける中国人の視線

  • 2

    【能登半島地震】正義ぶった自粛警察が災害救助の足を引っ張る

  • 3

    一流科学誌も大注目! 人体から未知の存在「オベリスク」が発見される

  • 4

    ルーマニアを飛び立ったF-16戦闘機がロシア軍を空爆?

  • 5

    プーチンの顔面に「異変」が...「頬どうした?」と話…

  • 6

    情報錯綜するイリューシン76墜落事件、直前に大きな…

  • 7

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 8

    「まだやってるの?」...問題は「ミス日本」が誰かで…

  • 9

    シャーロット王女の「ただならぬ風格」...5つの「フ…

  • 10

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story