コラム

日米首脳会談:菅義偉が国際政治のスターになる日

2021年04月16日(金)19時25分

派手さはないが国際政治のカギを握る存在に?RODRIGO REYES MARINーPOOLーREUTERS

<のちの歴史家が菅政権を重要な転機だったと位置付けても不思議ではない理由とは>

長らく安倍晋三前首相の番頭を務めてきた菅義偉首相は当初、内政で強みを見せるとみられていた。だが新型コロナ対策でのつまずきを見ると、勝機は外交にあるのかもしれない。その始まりは日米首脳会談だ。

日本の首相が近隣諸国以外で最初の外国訪問先としてアメリカを選ぶことは、これまでも珍しくなかった。しかし、4月16日にワシントンで予定されている菅首相とバイデン米大統領の首脳会談には特筆すべき点がある。菅は、バイデンが大統領就任後初めて直接対面する外国首脳なのだ。

菅が一般のアメリカ国民の間ではほとんど無名の存在であることを考えるとなおさら、今回の首脳会談はバイデン政権が菅を極めて重視していることの表れとみていい。

過去20年間の世界各国の外交政策を採点するとすれば、日本は世界の優等生と言える。日本政府は、政治的対立に深入りすることを避けつつ、摩擦と紛争の絶えない世界で巧みに進路を選び取り、通商関係の深刻な断絶を経験せずにやってきた。

今日の国際情勢の下、日本が極めて難しい地政学上の綱渡りを強いられていることを考えると、この点はひときわ目を見張る。米中対立が深刻化するなかで、インド太平洋地域の安全保障でアメリカとの連携を強める一方、中国への輸出も着実に増やしてきた。この偉業はもっと評価されていい。

こうした成果により、日本の外交関係者は自信を深めているようだ。日本の大物政治家などは日本もアメリカに追従して、台湾との関係強化や台湾防衛に乗り出す可能性を示唆している。

菅はバイデンとの会談の後、インドとフィリピンへの訪問も予定している。中国の攻撃的な姿勢を牽制するために、地域の国々の連合体を築くことを目指す明確なメッセージだ。この動きは、菅が昨年秋の就任早々にベトナムとインドネシアを訪れたことの延長線上にある。

当然、こうした動きに中国は神経をとがらせている。中国側は菅の訪米を前に、日本がこれまでの経済最優先の外交路線を放棄すれば、重大な結果を招きかねないという趣旨の警告を発している。

100年に1度の感染症危機と言われる新型コロナウイルス危機、人類の存亡に関わる気候変動問題、さらにはここにきて深刻さが増している世界的な半導体不足......。首脳会談でバイデンと菅が取り組まなくてはならない課題は山積している。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FOMC前のデータ重視、9月利下げ決定巡り─NY連

ワールド

トランプ氏、著名投資家ソロス氏を「組織犯罪対策法で

ビジネス

SOMPOHD、米上場の保険アスペン買収で合意 約

ビジネス

三菱商、洋上風力発電計画から撤退 資材高騰などで建
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に…
  • 7
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 8
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 9
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story