コラム

FRB議長「異例」交代でも、金融政策には変化なし

2017年12月02日(土)14時50分

トランプがイエレン(左)を続投させなかったのはオバマのせい? Jonathan Ernst-REUTERS

<トランプはオバマの遺産を全否定したいが、支持率に直接響く景気の悪化は望んでいない>

数字から判断する限り、イエレンFRB議長は大成功を収めた。任期中にアメリカの失業率が6.7%から4.1%まで大幅に低下したのは、目安の5%を下回っても景気刺激策を続けた賢明な判断のたまものだ。イエレンは副議長時代も含めた8年間で、1700万人分の雇用を創出した。

その人物を交代させるというトランプ大統領の決定は、金融の専門家たちを驚かせた。70年代以降、1期だけで退任するFRB議長はイエレンが初めてだ。

トランプは大統領就任後の景気回復をあれほど自慢げに語りながら、なぜ金融政策の舵取り役を交代させるのか。自身の再選と政治的将来が経済の先行きに懸かっていると思うなら、続投させるのが普通だろう。

トランプの支持率は好景気にもかかわらず、この時期の大統領としては史上最低だ。もし経済が変調を来せば、再選の望みはおそらく断たれる。なのになぜ、これほどリスクの大きい人事を決断したのか。

第1の理由は、オバマ前大統領を全否定したいから。イエレンをFRB理事にしたのも、議長に昇進させたのもオバマだ。

トランプは感謝祭前に大統領が行う恒例の「七面鳥恩赦式」で冗談を飛ばし、ホワイトハウスの法務顧問に相談したが、昨年の決定(オバマによる恩赦)を覆すことはできないとのことだったと言った。冗談ではあるが、トランプにとって、前任者の決定をそのまま引き継ぐことは反オバマという政治的アイデンティティーを破壊する行為なのだろう。

第2に、トランプが次期FRB議長に指名したジェローム・パウエルは中間派の無難な選択肢であり、イエレン時代の政策をおおむね継続すると予想されていること(実は12年にパウエルをFRB理事に指名したのも、14年に再任を決めたのもオバマなのだが)。イエレンとの唯一の違いは、ドッド・フランク法を含む銀行規制の緩和に前向きなことぐらいだ。

経済指標の悪化が怖い

パウエルは党派色の強い人物ではなく、合意形成の手腕に定評がある。トランプが過去に選んだ政府高官たちとの共通点があるとすれば、超富裕層であること。来年2月に正式就任すれば、1940年代以降で最も金満のFRB議長になる。

イエレンの反応も、トランプのパウエル起用のリスクを抑える要因だ。イエレンはFRB理事の辞任を表明した書簡で、アメリカ経済の力強い回復を強調した。FRB理事の任期は24年まであるが、議長退任に合わせて理事も辞めるのはこれまでの慣例どおりだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米北東部に寒波、国内線9000便超欠航・遅延 クリ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story