コラム

環境活動家のロバート・ケネディJr.は本当にマックを食べたのか?

2024年11月20日(水)14時40分

ですが、少なくともRFKジュニア氏にとっては、「マックのハンバーガー」の前で笑って写真に収まるというのは、不本意であったに違いありません。では、これは同氏が環境運動家や、自然食品運動家の自分を「かなぐり捨てて」トランプの権力に屈服したシーンなのかというと、それは違うと思います。


 

厚生長官の権限はそれなりに広く、国民の健康維持という目的のために、様々な活動が可能です。例えば、RFKジュニア氏というのは、環境や食品問題だけでなく、以下のような主張で知られています。

「水道へのフッソ添加は人体に有毒なので即時廃止すべき」
「あらゆる予防接種は強制でなく、接種するかは個人の自由とすべき」
「自閉症の原因となるので食品添加物の規制を強化すべき」
「人命を左右する効能のある薬剤には知的所有権を認めず、成果を人類で共有すべき」

この人は、人生をかけて本気でこうした立場が正しいと信じて、活動してきた人物です。その一方で、今回のトランプ政権入りにおいては、主張の多くを曲げることになるとはいえ、そこで手にした権力を使って、「この人なりの理想」の実現に突っ走る可能性は十分にあります。

政権内の抗争の火種に?

選挙というのは、票を足し算すれば勝てるので、彼の支持はトランプを利したと言えるでしょう。ですが、実際に政権入りした場合に、RFKジュニア氏がどのように政権にとってプラスの効果を生み出すかは全く分かりません。

共和党支持者の中で、ワクチン陰謀論も多いのですが、コロナ感染対策の「強制」については絶対反対の立場が圧倒的です。そのため、接種の自由化、例えば就学時に三種混合ワクチン接種の接種歴を「問わない」などの政策は歓迎されるかもしれません。それが麻疹の大流行などにつながれば大変ですが、そうした弊害が出る頃には、トランプは過去の人になって逃げ切っているかもしれないのです。

一方で、薬品メーカーの利潤追求を否定するようなスタンスは、共和党が歴史的に支援してきた薬品産業の利害を真っ向から否定するもので、政権内の抗争の火種になりそうです。加工食品や食品添加物への規制に乗り出せば、同じく共和党内の規制改革派との対立が避けられません。

同じように、マスク氏の政権参加も、そもそもEV製造メーカーのボスが、温暖化理論を否定する政権に入るのですから、こちらも矛盾だらけです。マスク氏の狙うDXによる政府の大リストラは、民主党の票田である官公労と激しい対立を生むでしょう。いずれにしても、マクドナルドのハンバーガーを並べてパチリとやった、4人の写真は極端で矛盾に満ちた政策実行の序曲として、歴史に残るかもしれません。

【関連記事】
プーチンが「友人ではない」と気付いた時、トランプは変われるのか?
対中強硬派ぞろいのトランプ政権に紛れ込んだ「親中」イーロン・マスクはどう動く

ニューズウィーク日本版 豪ワーホリ残酷物語
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月9日号(9月2日発売)は「豪ワーホリ残酷物語」特集。円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代――オーストラリアで搾取される若者のリアル

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、政権からの利下げ圧力を否定

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 3
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 8
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story