コラム

東京の江東5区、台風19号では見送られた250万人の広域避難

2019年10月29日(火)16時00分

3つ目はタイミングです。250万人の広域避難を想定するのであれば、そしてその場合に、公的交通機関を利用した避難になるのであれば、次のようなタイムラインを想定する必要があると思います。

(台風上陸もしくは豪雨発生想定時刻から逆算して)
▼24時間前......避難完了、危険箇所への立ち入り禁止措置開始、公的交通機関順次ストップ。
▼48時間前......避難ピーク、公的交通機関は臨時ダイヤに。
▼72時間前......避難指示、公的交通機関の計画運休具体化。

交通事業者も行政も、「72時間前なんて無理」と言うかもしれませんが、どう考えても250万人を安全に誘導するにはこのぐらいの時間が必要です。ということは、「空振り覚悟」で行政も、交通機関もこの72時間前というタイムラインで進めると宣言をして、社会的な合意を作っておかなければなりません。

4つ目は避難訓練です。できれば住民も全員参加で、とにかく行政と交通機関が協力して、避難訓練をしていくことは大切です。イザという時に、機能しなくなっては大変だからですし、また避難訓練をしておけば「広域避難」についての格好のPRになるからです。

5番目は、仮に江東5区について、万が一の場合は広域避難が発令されるという理解が徹底されるようになったとします。その場合に、「そんなに危険なエリアなら」と投資や購入の動きが鈍って、この5区の不動産価値が下がるようなことは望まれません。

このため、広域避難により人命を守り、また万が一の広域水害発生時には、それに耐えられるようにインフラも整備されており、またソフト面も充実していて、スピード復興が可能になっているということをPRして、また宣伝に違わぬ中身を実現させておくことで、不動産価値の下落を防ぐことが必要です。

いずれにしても、江東5区の広域避難というのは、大変にスケールの大きな問題です。万が一に備えて機能するようにしておかなければなりません。他にもあるかもしれませんが、この5点の論点について闊達な議論が行われることが必要でしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

無視できない大きさの影響なら政策変更もあり得る=円

ビジネス

ECB当局者、6月利下げを明確に支持 その後の見解

ビジネス

米住宅ローン金利7%超え、昨年6月以来最大の上昇=

ビジネス

米ブラックストーン、1─3月期は1%増益 利益が予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story