コラム

北朝鮮で「改革開放」を起こせるか?

2018年04月24日(火)14時45分

では、仮に核危機が終わり、北朝鮮が政治体制はそのままで、経済の開放を進め、中国や韓国などと積極的な経済交流をして、「まともな経済活動で徐々に反映していく」という可能性はあるのでしょうか。もちろん、そうなるのが理想です。政治体制は大きく変えないままで、中国と同じようにベトナムも経済成長の軌道に乗っていますし、北朝鮮にもできないはずはありません。

ですが、北朝鮮社会は、例えば1976年の統一後のベトナムとは違った問題があります。ベトナムの場合、確かに「北」による侵攻を恐れて「南」からは大量の難民が「ボートピープル」として主に香港経由で流出しました。ですが、実際のところは、統一後に旧南ベトナムの支配階層や資産家への報復的な粛清というのはほとんど行われませんでした。

ベトナム統一後の「暗い歴史」としては、大人数の兵士を失業させられないなかで、カンボジアへの介入や、中越紛争など無用の流血を起こしたことですが、少なくとも国内には後に「シコリ」を残すような流血や対立は起こさずに済んだのです。ボートピープルとして国を捨てた人々の中には、やがて本国に帰った人も多く、そうした人々は歓迎されています。また、そのような人材が経済成長を後押ししている部分は大きいと思います。

このベトナムの例と比較して、北朝鮮の場合は余りにも悲惨な人権侵害が続いています。ですから、急速に改革開放ができない「国内のシコリ」は深刻なものがあると考えられます。

似たような例として、全島に戒厳令を施行し続けた台湾の蒋介石政権があり、かなり残虐な弾圧などが行われました。ですが、この場合は、独裁者の死とともに長男の蒋経国が急速に「開かれた社会」を実現していきました。ですが、蒋経国の場合は父親の存命中にも隠密的に「やがて台湾を自由な社会に」という信念のもとで周到に準備を続けていたのです。現在の北朝鮮には、蒋経国に当たるような見識のある人物は果たしているのでしょうか。

そう考えると、北朝鮮を「開かれた社会」にするのは大変に難しいと考えざるを得ません。また、改革開放ができないのであれば、経済成長にも限界が来ます。そうなると、再び核開発なり武器の闇取引などに手を染めて「アングラ経済」で生きていくしかなくなる可能性があるわけです。

そうさせてはならない一方で、「準備不足の再統一」という無謀な判断もまた全員を不幸にしかねません。北朝鮮という国を緩衝国家として「現状維持」させるのは、その中間、つまり国際法違反を繰り返す無法な鎖国国家でもないし、韓国との拙速な再統一を進めるのでもない「ある種の均衡」を実現することを意味します。それは、どのような国家、あるいは社会の在り方なのか、果たして何らかのビジョンが見えてくるのか、今回の一連の首脳会談で注目していく必要がありそうです。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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