コラム

ケリー国務長官の広島献花は、米世論の反応を見る「アドバルーン」

2016年04月06日(水)11時00分

 まず、昨年の場合は、中国とロシアが早々に「戦後70年」を国威発揚、しかも軍事パレードという形で利用しようとしていました。ですから、仮に8月6日の慰霊式に米国側が大使だけでなく、国務長官や大統領の献花を検討したとしたら、これは極めて政治的なニュアンスになっていた可能性があります。

 それでも70年献花をやった方が良かったと私は思いますが、比較をするのであれば、昨年よりも今年のほうが「中ロに対抗する」というような政治的なニュアンスを避けることができるのは事実です。

 一方で、NPT体制に挑戦する核拡散の動きについては、イランについては当面の合意ができたということがありますし、一方で北朝鮮の問題は深刻化していますが、こちらは問題を封じ込めるための中国との連携は、昨年より今年のほうがはるかに強固になっている状況があります。

 こうした一連の動きの結果として、戦後70年という記念すべき年であった昨年よりも、今年は「純粋な追悼・純粋な核戦争抑止」という意味合いでの献花ができるようになっている、そう考えることができます。

【参考記事】オリバー・ストーンの広島・長崎訪問は、オバマ「献花」への布石になるか?

 妙な話ですが、共和党のトランプ候補が「日韓が駐留米軍の費用負担を増額しないのなら米軍を引き揚げる、その場合は両国に核武装を許す」という荒唐無稽な提案をしたことも、タイミング的にはプラスになったと思います。

 あの「暴言」については、アメリカでは「その提案がいかに荒唐無稽か」ということについて、日韓両国政府の公式見解と共に報道されています。また、その報道の中では、戦後の日本が被爆国でありながら、いや被爆国だからこそ、核武装という選択肢を排除して地域の安定に貢献してきたことがあらためて報じられているからです。

 ケリー国務長官を含むG7外相による慰霊碑献花が厳粛に行われ、アメリカの世論からも冷静に受け止められることで、5月のオバマ大統領来日時の広島訪問・献花へと自然な流れができるよう、静かに見守りたいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、21万2000件と横ばい 労働

ビジネス

円安は「かなり大幅」、日米金利差を反映=IMFアジ

ビジネス

英利下げ検討できず、高すぎる賃金上昇率などで=グリ

ビジネス

米ドルの基軸通貨としての地位、今後も続く=モルガン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲…

  • 7

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 8

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 9

    インド政府による超法規的な「テロリスト」殺害がパ…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story