コラム

更なる成長のビジネスモデルとは?

2010年07月21日(水)11時37分

(編集部からのお知らせ:このブログの過去のエントリーが加筆して掲載されている冷泉彰彦さんの著書『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』〔阪急コミュニケーションズ〕が発売されました。全国の書店でご購入ください)

 中付加価値の大量生産品を世界市場に輸出するというビジネスモデルでは、日本は韓国や中国にどんどんシェアを奪われているのですが、何度かこの欄でもお話ししたように、当然日本としてはより高付加価値のビジネス、つまり「最先端」に向かってゆかねばならないのだと思います。そこで戦うしか「食ってゆく」道はない一方で、高い教育を受けた労働力が幅広く残っているという点で、不可能なことではない、そう考えることが「成長戦略」の前提だとも言えます。

 ただ、こうした「最先端」というのは、従来のような中付加価値大量生産とは、ビジネスモデルが違います。やや大ざっぱな議論になりますが、何が違うのかについては、以下の4つのカテゴリに分けて考えることができるのではないでしょうか?

(1)まず最初は、ひたすらにアイディア勝負、天才的な経営者を中心に一心同体となった精鋭の企画集団が、ビジネスのスキーム、商品サービスのスキームの新しい提案をし続けるというモデルです。アップルやグーグルといったITの成功者グループは皆そうした特徴を持っています。ここでは新しい商品サービスの提案が、新しいビジネスのスキームの提案であり、そのスキームを押さえたことによる主導権を背景に、高い利益率とキャッシュフローを維持しながら、ひたすらに走り続けるというものです。

(2)とにかく大量の先行投資でブランド力を固めて、一気に市場のシェアを取るというビジネスモデルです。ナイキやスターバックス、エミレーツ航空など短期間に戦略的なブランド認知キャンペーンを世界規模で展開し、同時に商品サービス供給の体制も一気に作ってしまうという戦略です。これも以前にお話ししたと思うのですが、今日本でも話題になっている国際会計基準を戦略的に使うことでこうした企業の今日のプレゼンスは確立していると言えるでしょう。

(3)必ずしも100%の成功確率はない複数のプロジェクトを、予めその何本かは失敗するというリスクを抱えながら全体としてマネージするというモデルです。典型的なのが
映画や新薬開発で、それぞれに一本のプロジェクトの規模は100億円単位以上の投資が必要ですが、失敗するリスクを成功したプロジェクトの利益でカバーするという全体の経営感覚がカギになるのです。

(4)最後は、息の長い巨大なプロジェクトでありながら、初期設計の作り込みが重要となるものです。例えば、旅客機、高度医療関連機器、原子炉といったものが該当すると思うのですが、最初にカネと才能を投入してしっかり設計を固めてから走ることが求められる、そんなビジネスです。

 こうした4つのカテゴリは、横並びの業界の中で、それぞれが漠然としたアイディアから徐々にリサーチを重ねて試行錯誤の結果、まずまずの確定設計に至り、その後もカイゼンを重ねて・・・という「手」は使えない、つまり70年代後半から80年代にかけての日本が成功したビジネスモデルでは通用しないカテゴリのように思います。

 この中では例えば家庭用ゲームのプラットファームを押さえたビジネスは(1)のカテ
ゴリとして競争力を持っているのは間違いないでしょう。これを他の分野に拡大してゆけるかがカギだと思います。ちなみに、3Dの家庭用AV機器は、ハード販売というビジネスでは妙味はないですが、ゲームというソフトを絡めれば可能性はあると思います。(2)に関しては、とにかく国際会計基準のマインドについて後ろ向きの理解が横行している中、何としても前向きの議論を起こしたいものです。

 問題は(3)と(4)で、これが成功するためには、単に才能のある人材がいるとか、リスクを取れる度胸のある経営者が存在すれば良いという話では済まないように思います。投資におけるハイリスク・ハイリターンであるとか、長期プロジェクトの評価と長期資金の集め方など、金融や経営の背景にあるマインドを変えなくてはダメということもありますが、問題はコミュニケーションでしょう。

 気心知れた人材が徐々に本領を発揮して互いの持ち味を出してゆく・・・そんな「調和」を前提とした人間関係ではなく、正しいと思うことには猪突猛進する馬力や、設計上譲歩できないことは譲歩しないこだわりを持ち、役割分担の相互乗り入れはしない代わり、持ち場への責任はしがみついてでも全うする、そんな烈しさをもった人材群をひっぱるリーダーシップが求められるのではないでしょうか。いずれにしても、こうした4つのカテゴリの中で、新たなサクセス・ストーリーを描いていくことが「成長戦略」なのだと思います。

 有権者が「ねじれ」を選択することで、政治への委任を極小化するという日本社会の展開では、こうした「成長戦略」に関する政治のリーダーシップも期待されていないのだと思います。ということは、歯を食いしばってでも、民間からリスクを取って「最先端」へ飛び込んでいく動きを作り、それに相応しい人材を育て、資金を集めてゆかねばならない時代だということです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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