プレスリリース
芝浦工大が赤外領域で発光する有機色素を開発 酸化還元に応じて可視発光と赤外発光をスイッチする新材料
2025年05月13日(火)14時00分
芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)工学部・リチャーズ ゲーリー准教授・堀顕子教授(分子集合学研究室)および田嶋稔樹教授(有機電気化学研究室)らの研究チームは早稲田大学及び物質・材料研究機構と共同し、可逆的な酸化還元反応によって可視(VIS)から近赤外(NIR)・短波赤外(SWIR)領域へと蛍光をスイッチできる有機色素材料の開発に成功しました。
近赤外蛍光分子は、低エネルギーかつ生体組織内での透過性が高いため、バイオイメージングや疾病の診断技術への応用が期待されています。しかし、軽元素からなる有機分子では、励起エネルギーが熱失活しやすく、赤外発光を得るのは困難とされてきました。これに対し、本研究で合成されたピラジナセン色素は電子受容部位に優れたπ共役系をもつと同時に、分子の振動による熱失活を抑えた分子設計から、赤外領域でも良好な発光量子収率を示します。
さらに、電子供与基であるトリフェニルアミン基を導入することで、分子全体に電荷移動を生じさせ、酸化還元に応じた劇的な吸収・発光波長の変化(最大400nm超の波長変換)を実現しました。このスイッチングは化学的・電気化学的な手法のいずれでも達成でき、医療・バイオ分野における酸化還元プローブや光デバイス応用に向けた有望な基盤技術となります。
※この研究成果は、国際学術誌 Angewandte Chemie International Edition オンライン版に掲載されています。
■ポイント
・近赤外(NIR)・短波赤外(SWIR)領域の発光制御を実現
・周囲の酸化還元に応答し、可視(VIS)から近赤外(NIR)・短波赤外(SWIR)領域へと蛍光をスイッチできる
・電荷移動と発光をつなぐ新しい学理を提供する
・低エネルギーかつ生体組織内での透過性が高い発光素子としての応用が期待
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/435907/LL_img_435907_1.png
図_酸化還元応答により可視領域および赤外領域で発光する化合物
■研究の背景
有機蛍光分子は、医療診断用のバイオイメージング、赤外発光デバイス、レーザー、太陽電池など多様な分野で注目されています。中でも、近赤外(NIR)や短波赤外(SWIR)領域で発光する分子は、生体透過性が高く、生体深部の観察や疾患検出に適しているとされています。しかし、これらの発光特性を持つ有機化合物の設計は困難で、通常は多段階の合成ステップを経て大きなπ共役系分子を構築する必要があります。また、一般的な有機分子はC-H結合などを多く含み、励起状態のエネルギーが熱失活してしまうため、赤外発光が著しく弱くなるという課題がありました。そのため、近赤外発光有機色素の開発は合成学的な挑戦として、幅広い分野で興味が持たれています。
■研究の概要
本研究チームは、電子受容性に優れたピラジナセン骨格に電子供与性のトリフェニルアミン基を導入した新しい有機色素を開発し、可視光から近赤外・短波赤外領域までの発光を単一分子内で可逆的に切り替えることに成功しました。これらの分子は、還元状態では可視領域で強く発光し、酸化されると発光波長が大きく低エネルギー側へ移動し、近赤外(NIR~SWIR)領域に到達します。この発光スイッチングは、化学反応だけでなく電気化学的にも達成でき、しかも構造変化は最小限(1つの6員環内の電子状態変化)のみで完結するという、これまでにない分子設計です。また、C-H結合が存在しないピラジナセン構造を採用することで、熱失活を抑制し、NIR領域でも比較的高い発光量子収率が得られました。
■今後の展望
本研究で得られた分子設計戦略は、電荷移動の活用と今後の赤外蛍光材料の開発において合理的な合成指針を提供します。特に、簡便な酸化還元操作によって発光特性を制御できるという特性は、疾患関連の酸化還元環境を可視化する蛍光プローブの開発や、電気化学的スイッチング素子への応用が期待できます。さらに、ピラジナセンの構造は他のドナー・アクセプター系にも応用可能であり、今後は分子設計の多様化によりさらなる性能向上が見込まれます。
■研究助成
本研究は、JSPS 科研費21K05044/24K08401(リチャーズ)および23K21122(堀)の助成を受けたものです。
■論文情報
著者 : 芝浦工業大学大学院理工学研究科 准教授 リチャーズ ゲーリー J.
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士 中田 和志
芝浦工業大学工学部 学士 青木 啓太
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士 實方 友輝
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士 橋本 果南
芝浦工業大学大学院理工学研究科 教授 田嶋 稔樹
早稲田大学先進理工学部 修士 溝口 隆介
早稲田大学先進理工学部 准教授 石井 あゆみ
国立研究開発法人物質・材料研究機構 ヒル ジョナサン P.
芝浦工業大学工学部 教授 堀 顕子
論文名: Redox-Activated Near Infrared/Shortwave Infrared Emissive Chromophores: Synthesis of Triphenylamine-Appended Pyrazinacenes
掲載誌: Angewandte Chemie International Edition
DOI : 10.1002/anie.202504564
URL : https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202504564
■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約9,500人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。
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プレスリリース提供元:@Press
近赤外蛍光分子は、低エネルギーかつ生体組織内での透過性が高いため、バイオイメージングや疾病の診断技術への応用が期待されています。しかし、軽元素からなる有機分子では、励起エネルギーが熱失活しやすく、赤外発光を得るのは困難とされてきました。これに対し、本研究で合成されたピラジナセン色素は電子受容部位に優れたπ共役系をもつと同時に、分子の振動による熱失活を抑えた分子設計から、赤外領域でも良好な発光量子収率を示します。
さらに、電子供与基であるトリフェニルアミン基を導入することで、分子全体に電荷移動を生じさせ、酸化還元に応じた劇的な吸収・発光波長の変化(最大400nm超の波長変換)を実現しました。このスイッチングは化学的・電気化学的な手法のいずれでも達成でき、医療・バイオ分野における酸化還元プローブや光デバイス応用に向けた有望な基盤技術となります。
※この研究成果は、国際学術誌 Angewandte Chemie International Edition オンライン版に掲載されています。
■ポイント
・近赤外(NIR)・短波赤外(SWIR)領域の発光制御を実現
・周囲の酸化還元に応答し、可視(VIS)から近赤外(NIR)・短波赤外(SWIR)領域へと蛍光をスイッチできる
・電荷移動と発光をつなぐ新しい学理を提供する
・低エネルギーかつ生体組織内での透過性が高い発光素子としての応用が期待
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/435907/LL_img_435907_1.png
図_酸化還元応答により可視領域および赤外領域で発光する化合物
■研究の背景
有機蛍光分子は、医療診断用のバイオイメージング、赤外発光デバイス、レーザー、太陽電池など多様な分野で注目されています。中でも、近赤外(NIR)や短波赤外(SWIR)領域で発光する分子は、生体透過性が高く、生体深部の観察や疾患検出に適しているとされています。しかし、これらの発光特性を持つ有機化合物の設計は困難で、通常は多段階の合成ステップを経て大きなπ共役系分子を構築する必要があります。また、一般的な有機分子はC-H結合などを多く含み、励起状態のエネルギーが熱失活してしまうため、赤外発光が著しく弱くなるという課題がありました。そのため、近赤外発光有機色素の開発は合成学的な挑戦として、幅広い分野で興味が持たれています。
■研究の概要
本研究チームは、電子受容性に優れたピラジナセン骨格に電子供与性のトリフェニルアミン基を導入した新しい有機色素を開発し、可視光から近赤外・短波赤外領域までの発光を単一分子内で可逆的に切り替えることに成功しました。これらの分子は、還元状態では可視領域で強く発光し、酸化されると発光波長が大きく低エネルギー側へ移動し、近赤外(NIR~SWIR)領域に到達します。この発光スイッチングは、化学反応だけでなく電気化学的にも達成でき、しかも構造変化は最小限(1つの6員環内の電子状態変化)のみで完結するという、これまでにない分子設計です。また、C-H結合が存在しないピラジナセン構造を採用することで、熱失活を抑制し、NIR領域でも比較的高い発光量子収率が得られました。
■今後の展望
本研究で得られた分子設計戦略は、電荷移動の活用と今後の赤外蛍光材料の開発において合理的な合成指針を提供します。特に、簡便な酸化還元操作によって発光特性を制御できるという特性は、疾患関連の酸化還元環境を可視化する蛍光プローブの開発や、電気化学的スイッチング素子への応用が期待できます。さらに、ピラジナセンの構造は他のドナー・アクセプター系にも応用可能であり、今後は分子設計の多様化によりさらなる性能向上が見込まれます。
■研究助成
本研究は、JSPS 科研費21K05044/24K08401(リチャーズ)および23K21122(堀)の助成を受けたものです。
■論文情報
著者 : 芝浦工業大学大学院理工学研究科 准教授 リチャーズ ゲーリー J.
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士 中田 和志
芝浦工業大学工学部 学士 青木 啓太
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士 實方 友輝
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士 橋本 果南
芝浦工業大学大学院理工学研究科 教授 田嶋 稔樹
早稲田大学先進理工学部 修士 溝口 隆介
早稲田大学先進理工学部 准教授 石井 あゆみ
国立研究開発法人物質・材料研究機構 ヒル ジョナサン P.
芝浦工業大学工学部 教授 堀 顕子
論文名: Redox-Activated Near Infrared/Shortwave Infrared Emissive Chromophores: Synthesis of Triphenylamine-Appended Pyrazinacenes
掲載誌: Angewandte Chemie International Edition
DOI : 10.1002/anie.202504564
URL : https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202504564
■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約9,500人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。
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