コラム

トランプが起訴も弾劾もされないこれだけの理由

2018年08月29日(水)17時00分

もちろん、大統領が違法な選挙操作をしたら弾劾されるべき。1787年の憲法制定会議でも「選挙人への贈賄で当選した大統領」を弾劾対象の例として挙げている。トランプは、元愛人への口止め料を払うことで選挙に影響を与えたかもしれない。当選につながったロシアによる選挙干渉に協力しているかもしれない。それ以外でも何かやっているかもしれない。ムラーはその真相を調べているところで、その報告を受けて国会が弾劾するかどうかを決めるはずだ。

しかし、国会も選挙で選ばれているのだ!

トランプ支持者の票を失いたくないから、弾劾に反対する共和党の政治家は当然いるはず。でも、それは民意を反映する通常の状態。問題は、口止め料やロシアの干渉などはトランプ1人を当選させるためのものだったとはいえ、そこで生まれた「トランプの波」に乗って当選した議員も少なくないことだ。つまり、不正を働いた人を、その不正の恩恵を受けた人が裁く立場にいる。銀行強盗の裁判で、金庫から出した現金を陪審員に配っているような状態だ。弾劾はまずなかろう。

あら? じゃあ、これは大統領を起訴できる「特別なケース」に当たるのではないか?

もちろん、僕はそう思う。でも、それでも起訴はされないと見る。なぜなら起訴するかどうかの判断を下すのは司法局長で、それはトランプが指名したジェフ・セッションズ。万が一彼が、もしくはその判断を託した副長官がOKを出しても、起訴できないかもしれない。

大統領側は起訴の権利を否定し、その争いも裁判沙汰になる。結局、最終的に起訴できるかは、最高裁判所が決めることになるだろう。判事の多数決で。今は最高裁の判事は8人中4人が共和党大統領によって指名された人だが、実はもう1人の判事が指名済みで上院の承認待ちになっている。その人が加わると5-4で共和側が優位になる。しかも承認待ちの人、ブレット・カバノーというけど、以前に専門誌へ寄稿した記事で「大統領は起訴できない」と主張している。ちなみに、この都合のいい「大統領起訴不可能主義者」を指名したのは......はい、ドナルド・トランプ容疑者、もとい、大統領だ。

起訴もなければ、弾劾もない。不正や犯罪が発覚しても、その責任追及はしない。法治国家が法治放置国家になる瞬間だ。こんな状態を見て、思わず口から漏れる言葉は「OMG!」

いや、大阪・松原ゴーカートショップではない。Oh my God! (オー・マイ・ゴッドー!)の略だ。

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プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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