コラム

アウシュヴィッツ収容所の隣、塀のこちら側のファミリードラマ『関心領域』

2024年05月23日(木)17時40分

そのファミリードラマの結末

グレイザーがそんな緻密な脚本で狙っているのは、たとえば、サバービアを舞台にしたジョン・チーヴァーの短編小説のような物語を語ることだ。郊外で夫婦が幸せに暮らしていたが、組織に帰属する夫は転勤が避けられず、家に執着する妻との関係が悪化し、夫婦はその先どうなるのか、といった物語だ。

本作の塀で隔てられたふたつの世界の対比が生み出す異様な空気や緊張が、ルドルフの転属によって舞台が変わっても失われず、むしろ増幅されていくのは、夫婦のファミリードラマと描かれないホロコーストが一貫して対比されつづけるからだ。

そのファミリードラマの結末は気になるところだが、グレイザーは、歴史を捻じ曲げることなく、ハッピーエンドにまとめてしまう。というのも、転属後のルドルフには、彼の後任としてアウシュヴィッツの所長となったリーベヘンシェルが降格されたときに、再び所長に就任した事実がある。本作ではそれが、家族が再びひとつになることを意味する。

グレイザーが、そんなファミリードラマと決して切り離せないものとして、われわれに想像させるホロコーストには、言葉にし難い恐怖がある。

『関心領域』
公開:5月24日より新宿ピカデリー、TOHO シネマズ シャンテほか全国公開
© Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.


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プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

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