コラム

FOMC利下げ示唆、ポイントは2つ

2019年06月20日(木)13時58分

7月に利下げが行われるかどうかは、依然予断を許さない(FRBのパウエル議長) Al Drago-REUTERS

<FOMCのメンバーは長期的には利上げで一致したが、短期的に利下げをすべきかどうかでは意見が真っ二つに割れた>

FOMCの声明文、とりわけいわゆるドットチャートによれば、半数近くのメンバーが年内の利下げ0.5%を見込んでいるということで、金融市場は当初の期待通りの結果で、ドルは若干安くなり、金利低下、株価もわずかに上昇した。

興味深い点が2点ある。

まずは、利下げを予想するメンバーが半数いたのと同時に利下げなしを予想するメンバーも半数いたこと。これは真っ二つに割れている、ということで、昨年12月時点の利上げ方向とは様相を一変し、利上げはなくなったわけだが、一方で、利下げとなるかどうかはまだ五分五分、というところ。さらに、これが今年の利下げはなく来年度を彼らが見込んでいるかというと、そうではなく、来年の水準も真っ二つに分かれている。

つまり、利下げの時期をめぐって争っているのではなく、そもそも利下げが必要かどうかをめぐって争っているのである。これは通常の中央銀行の利下げ方向の金融政策ではあまりないことであり、今後も予測がつかない。

さらに、長期の金利水準については、この二極化は解消され、利上げ方向で統一されている。つまり、ゆくゆくは利上げで、利上げ方向をめぐっては、その是非ではなく、タイミング、時期の争いとなっているのである。

市場の読みは短期的には正しい

これを中立的に見れば、依然として大局的には、金融政策は今後利上げ方向にあり、利下げがあるとしても一時的ということだ。

金融市場の投資家たちの期待は、長期で考えれば間違っていることになるが、中期的には間違っているわけではなく、短期的には正しかった、ということが示されたのが昨夜のFOMCということである。

もう一つのポイントは金融市場の反応で、株式市場はFOMCの結果はほぼ予想通り、為替はドル下げ方向に若干サプライズ、金利(債券)は一定のサプライズということになった。つまり、理論派の債券市場はサプライズ、投機家的あるいは狩猟民族的な株式市場にとっては予想通り、ということで、これは長期と短期のずれと同様の傾向を示している。

すなわち、短期志向の投機家にとっては予想通り、長期を考える理論派投資家にとっては利下げ方向への若干のサプライズ(あるいは依然として懐疑的)ということを示している。

したがって、市場の期待と本来の金融政策の考え方(雇用を目的に金融政策を考える、インフレは制約条件という現代的な考え方)がずれているように見えるのは、単に短期のことと長期のこと、という区別をすれば矛盾はないことになる。

要は市場は最大数か月の短期のことしか考えていないということを改めて示したに過ぎない。

7月に実際に利下げになるかどうかは依然予断を許さない。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

magSR190625issue-cover200.jpg
※6月25日号(6月18日発売)は「弾圧中国の限界」特集。ウイグルから香港、そして台湾へ――。強権政治を拡大し続ける共産党の落とし穴とは何か。香港デモと中国の限界に迫る。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

利上げ含め金融政策の具体的手法は日銀に委ねられるべ

ワールド

香港火災、警察が建物の捜索進める 死者146人・約

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持の右派アスフラ

ビジネス

債券市場の機能度DI、11月はマイナス24 2四半
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story