コラム

物価はどう決まるか 混乱する経済学

2018年06月19日(火)15時00分

ケインズは投資家(投機家)だったから、投資家(投機家)の選好をよく分かっていた。暴落の最中には、誰も、どんなに安くなっても、その証券(株式、債券)を買いに行かない。底打ちを確認してから、買いに入る。そのため、様子見をするため、また底打ちした瞬間から買いに入るために、流動性を用意しておく必要があった。今安くても明日はもっと安くなるかもしれない。だから、防衛としても、恐怖としても、流動性を選好し、次のチャンスを狙うという意味でも流動性を選好するのだ。

この流動性選好を財市場に応用したのが、財政政策の議論で、穴を掘って埋めるような政府財政出動でも意味がある、という話に繋がっていく。

金融市場が凍りついたときに、何かのきっかけで誰かが買いに入り、買いの流れが優勢になれば、待ち構えていた流動性が買いに殺到する。それと同じように、財市場でも、何かのきっかけがあり、経済が動き出せば、人々は消費に動き、企業は投資、生産に動く。だから、そのきっかけを作るために、誰も居なければ、政府が動け、というのが財政出動の提案、発明だ。

***

しかし、このケインズの鋭い、いや非常に自然な洞察は、他の不自然なエコノミストたちの小難しい議論よりもはるかに説得力があり、現実にも当てはまっているのだが、問題は、動き出すきっかけは、ケインズにもわからない。

政府が財政出動するのはきっかけなのだが、それに反応して人々、企業が動くかは、人々、企業次第であり、そのとき需要が出てくれば、その需要に応じて価格は上昇していく、ということだが、需要が出てくるかどうかわからない。

そして、更なる問題は、ケインズもこれはマクロ経済学の誕生とも言っていいのだが、マクロであって、ミクロの価格理論は説明していない。

なぜ、需要が増えると価格が上がるのか。

証券市場は分かりやすい。価格決定がオークションになっているからだ。

しかし、それでもケインズの言うように、短期的な価格では需給調整は行われない。

ましてや、明示的にオークションが行われていない財市場はどうだ。しかも、ブランド物や個別特有のもの、これらの価格がオークションで決まっているとは思えない。

所得が増えるとある程度は消費が増える。マクロ的にはこれはデータ的に分かっているし、個別のミクロでも一般的にはそうだ。しかし、ある財の消費が増えるとその価格が上がる、とは教科書のどこにも書いていない。

経済学は、なぜ個別価格が上がるか説明していないのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。著書に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

ニュース速報

ビジネス

米小売売上高、11月は0.2%増 予想下回る

ワールド

米中が「第一段階」通商合意、トランプ氏「15日の関

ビジネス

訂正:〔情報BOX〕ニューフレアTOBに東芝とHO

ビジネス

日銀、金融政策は現状維持の公算 短観が拡大シナリオ

MAGAZINE

特集:進撃のYahoo!

2019-12・17号(12/10発売)

メディアから記事を集めて配信する「巨人」プラットフォーマーとニュースの未来

人気ランキング

  • 1

    共産党国家に捧げるジョーク:変装した習近平に1人の老人が言ったこと...

  • 2

    中国で焚書令、文化大革命の再来か

  • 3

    麻酔を忘れて手術された女性、激痛に叫ぶも医者が気づかない!?

  • 4

    習近平を国賓として招聘すべきではない――尖閣諸島問題

  • 5

    キャッシュレス化が進んだ韓国、その狙いは何だった…

  • 6

    熱帯魚ベタの「虐待映像」を公開、動物愛護団体がボ…

  • 7

    自殺した人の脳に共通する特徴とは

  • 8

    インフルエンザ予防の王道、マスクに実は効果なし?

  • 9

    乗客が餓死する高原列車で行く、金正恩印「ブラック…

  • 10

    ウイグル人と民族的に近いトルコはなぜ中国のウイグ…

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 3

    熱帯魚ベタの「虐待映像」を公開、動物愛護団体がボイコット呼び掛ける

  • 4

    インフルエンザ予防の王道、マスクに実は効果なし?

  • 5

    中国で焚書令、文化大革命の再来か

  • 6

    ウイグル人権法案可決に激怒、「アメリカも先住民を…

  • 7

    次期首相候補、石破支持が安倍首相を抜いて躍進 日…

  • 8

    東京五輪、マラソンスイミングも会場変更して! お…

  • 9

    トランプ、WTOの紛争処理機能を止める 委員たったの…

  • 10

    共産党国家に捧げるジョーク:変装した習近平に1人の…

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    「愚かな決定」「偏狭なミス」米専門家らが韓国批判の大合唱

  • 3

    「日本の空軍力に追いつけない」アメリカとの亀裂で韓国から悲鳴が

  • 4

    元「KARA」のク・ハラ死去でリベンジポルノ疑惑の元…

  • 5

    「韓国は腹立ちまぎれに自害した」アメリカから見たG…

  • 6

    文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」…

  • 7

    GSOMIA失効と韓国の「右往左往」

  • 8

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 9

    GSOMIA継続しても日韓早くも軋轢 韓国「日本謝罪」発…

  • 10

    日米から孤立する文在寅に中国が突き付ける「脅迫状」

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
「STAR WARS」ポスタープレゼント
ニューズウィーク試写会ご招待
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!