コラム

誰が金融政策を殺したか(前半)

2015年09月28日(月)18時00分

渦中の人 慎重の上にも慎重を期して利上げを見送ったイエレン米FED議長 Mary Schwalm-REUTERS

※誰が金融政策を殺したか(後半) はこちら


 FED(米国中央銀行)は9月17日に利上げを行い、実質ゼロ金利から脱却する可能性があると見られていたが、結局、利上げを見送った。同じ週の9月15日には、日本銀行も政策決定会合後、金融政策の変更はなしと発表し、黒田日銀総裁の記者会見もいつも通り強気のものであった。

 これは、日米、同様の対応のように見えるが、実は正反対なのである。つまり、米国は実体経済は明らかに強いのに、イエレンは非常に慎重に国際的な金融市場、経済からの米国経済への影響を心配した、いわゆるハト派の記者会見であった。一方黒田氏は、日本経済は景気循環からするとピークアウトし、物価は原油などの輸入物価の下落だけでなく、内需からの上昇圧力もピークアウトしつつあることを全く無視したかのような、日本経済はますます順調、というようなトーンのものであった。

 すなわち、米国は、実体経済は強く、利上げをしなければならないのに、イエレンは、実体経済を慎重に見たために利上げを思いとどまったということで、ハト派だったのに対し、黒田氏は、日本は、実体経済はいまひとつ、物価に関しては弱いにもかかわらず、それをほぼ全否定し、見かけは今ひとつだが、トレンドとしては強い、何も弱気になる理由は今のところない、と強気に終始したのであった。

 さらに、軟弱な投資家、つまり、中央銀行の政策頼みの投資家達は、イエレンは利上げを実行するのではとびくびくしていたが、それは行われず、慈悲深い聖母のようなイエレンに感謝し、日銀は、そろそろ追加緩和をしてくれるのではないか、米国が利上げする分、日銀が第三弾の異次元緩和、追加緩和を行って世界を支えてくれるのではないか、という甘い期待が裏切られ、かたくなになった黒田氏に、かつての出欠大サービス、二度目は誰もおねだりもしていないのに、サービスしてくれた気前の良いおじさんの面影が消えたことに、失望し、怒りとまでは行かないまでも、疑問を持ち始めた。

 本来、金融政策とは、景気循環をなめらかにするために存在する、経済運営の微調整であり、世間一般に議論を巻き起こすようなものではなく、セントラルバンカーという地味な官僚によるテクニカルな仕事ではなかったか。

 誰が、こんなに金融政策を複雑にしたのか。

 第一に、投資家達である。

投資家と中央銀行の主導権争い

 投資家が弱った市場を救済して貰うために、中央銀行にすがり、その後、たかり、さらに、開き直って、命令するようになった。投資家が自己利益のために中央銀行を振り回し、それに対し、中央銀行が巻き返しを図るかどうか。金融政策におけるリーダーシップの奪い合いを行っており、現在は、中央銀行が主導権を奪い返せるか、というところが焦点だ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、EUに凍結ロシア資産活用の融資承認を改

ワールド

米韓軍事演習は「武力」による北朝鮮抑止が狙い=KC

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ

ワールド

ローマ教皇、世界の紛争多発憂慮し平和訴え 初外遊先
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 9
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 10
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story