最新記事
シリーズ日本再発見

日本の警備会社が生んだ「セキュリティの概念」を変えるサービス

2016年07月27日(水)15時12分
西山 亨

 同社のセキュリティ事業の特徴は、従来の欧米の警備保障会社とはまったく異なる考え方でオンライン・セキュリティシステムを構築してきた点にある。

「欧米ではセキュリティに関する機器を販売することが重要視されており、異常が起きた際の緊急対処は、警察へ通報することで完結してしまうことが多いのです。それに対して、セコムではコントロールセンターが異常信号をキャッチすると、緊急対処員が契約先へ急行し、状況に適した処置を迅速に行います」と安田さん。日本の警備サービス業界では他社も同様の方法で追従してきたため、こうしたスタイルがスタンダードだと思われているが、世界的に見てもセコムが初めて実現させたものだ。

 また、「トータル・パッケージシステム」と呼ばれる基本コンセプトも、同社ならではの強みといえるだろう。これは、セキュリティの研究・開発に始まり、機器の製造や取り付け工事、監視、緊急対処、メンテナンスまで、すべてを自社で運用・管理することで質の高いサービスを実現するというものである。

 海外でも原則として、サービス内容は変わらない。最後まで面倒をみることで安全な状態にし、顧客に安心感を与えることで、支持を集めてきた。特に台湾と韓国ではほぼ全土で事業展開しており、日本と同程度の普及率を誇るまでに成長している。

 一方、セキュリティ先進国のイギリスには、1996年に進出。2011年にはRBS銀行とHSBC銀行という同国2大メガバンクの各支店にサービスを提供し始めるなど、"欧米流"ではない同社の警備サービスが高く評価されている。

japan160727-2.jpg

イギリスには1996年に進出。2007年、ヒースロー国際空港などにセキュリティシステムを提供したことで「セキュリティ・エクセレント・アワード」の最優秀顧客サービス賞を受賞(写真提供:セコム)

パートナー企業の選定にとことん時間をかける

 セキュリティ事業が中心ではあるものの、セコムの事業は実はかなり多岐にわたっていることをご存じだろうか。1989年以来、セキュリティ以外にも、防災やメディカル、保険、地理情報サービス、情報通信、不動産といった事業を展開してきた。「安全・安心」かつ「快適・便利」な社会を実現するために、さまざまな事業を融合させた新しい「社会システム産業」の提供を目指しているという。

 現在、199社のグループ会社を擁し、「セキュリティ」「超高齢化社会」「災害」という3つの分野でグループのアドバンテージを活かした事業を推進。2016年3月期の連結売上高は8800億円を超え、警備サービス業界の2位以下を大きく引き離している。

 しかし、業界におけるガリバー的な存在であるがゆえに、セキュリティ事業の海外展開が12カ国にとどまっている点が興味深い。実は、同社の海外事業は現地のパートナー企業との合弁によって展開、または現地の企業を買収することで行っている。その際に最も力を入れていることが、パートナーとなる企業探しだという。その重要性を安田さんが語ってくれた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中