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シリーズ日本再発見

なぜ日本の音楽教室が、クラシックの本場でも受け入れられたのか

2016年07月20日(水)11時03分
西山 亨

写真提供:ヤマハ音楽振興会

<1964年、初の海外となるアメリカへ進出したヤマハ音楽教室。今や40以上の国と地域に教室があり、海外だけで約19万人が音楽を学んでいる。クラシックの本場であるヨーロッパでも受け入れられた秘訣は、画期的なビジネスモデルと創立者の信念にあった> (写真:海外進出初期の頃のアメリカの教室)

【シリーズ】日本再発見「世界で支持される日本式サービス」

 今年4月、上原ひろみの『SPARK』が全米ビルボードの「トラディショナル・ジャズ部門」で1位、さらには総合ランキングでも1位を獲得した。「トラディショナル・ジャズ部門」の1位は日本人として初の快挙だ。ジャズピアニストとしての世界的な地位を確立した上原だが、彼女が幼少時に音楽の基礎を身につけたのは、あのヤマハ音楽教室だった。

 楽器メーカー大手の日本楽器製造(現ヤマハ)が1954年に始めた「音楽教室」の事業は、設立からわずか10年で、教室数は約5000会場、生徒数は約20万人と、急成長を遂げた。実際、規模が拡大するにつれて、ピアノやオルガン、エレクトーンなどの楽器の販売数も急伸したという。

 だが、「当時の日本楽器製造の社長だった川上源一は、敢えて音楽教室を楽器の販売とは切り離し、教育事業単体として独立した形での普及を目指したようです」と、ヤマハ音楽振興会海外部の牧野知明さん。実際に1966年には、教育事業(ヤマハ音楽教室)は公益性を担保すべきとの考えから、財団法人ヤマハ音楽振興会を設立。2011年には一般財団法人へと移行し、今に至っている。

 設立10年で生徒数約20万人という国内での成功に自信をつけたヤマハは、1964年にアメリカ・ロサンゼルスで初の海外教室を開校。それを皮切りに、メキシコ、カナダ、タイ、ドイツ、シンガポールなど、世界各地へ教室を広げていった。60年以上の歴史を誇り、卒業生は500万人以上。今や40以上の国と地域に教室があり、海外だけで約19万人が音楽を学んでいる。

 ヤマハ音楽教室はなぜ、国内外でこれほど支持されているのか。その理由は、画期的なビジネスモデルと創立者の信念にあった。

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ヨーロッパへの展開は意外と早く、1967年にドイツに教室を開設。クラシックの母国でもヤマハメソッドを支持するコアなファンは多い。ドイツの教室でのレッスン風景(写真提供:ヤマハ音楽振興会)

画期的だった「楽しむ」感覚のグループレッスン

 ヤマハ音楽教室は前進である「実験教室」からスタートした。1953年に川上氏が欧米を視察した際、現地の人たちがさまざまな場面で楽器を演奏し、心から音楽を楽しんでいることに感銘を受けたのがきっかけ。牧野さんによると、「当時の日本では、音楽といえば有名な音楽家の演奏を聴くといった受動的な体験がほとんどで、自ら楽器を手にして自由に表現する文化が育まれていなかった」そうだ。

【参考記事】アメリカで聞く坂本龍一氏のピアノ・ソロ

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