最新記事
シリーズ日本再発見

子供を解放し、母親も解放する日本の街──アメリカから見た『はじめてのおつかい』

It Takes a Village

2022年05月11日(水)18時55分
ヘンリー・グラバー

筆者に『はじめてのおつかい』を紹介してくれたレベッカ・クレメンツはシドニー大学の研究員で、日本の駐車に関する論文を執筆している(例えば、日本では車を購入する際に路上ではない駐車場所を確保しているという証明書が必要だ)。

クレメンツによれば、この番組は日本が子供に「都市での市民権」を与えていることを象徴している。

日本の子供は毎日たくさん歩く。特に7~12歳は、5回の移動のうち4回は徒歩だ。

これほど徒歩移動が多い主な理由は、自宅から近い学校に通っているからだ。多くの学校は「歩くスクールバス」方式を採用しており、年上の子供が年下の面倒を見ながら学校まで行進する。

カナダのモントリオール理工科大学准教授で、日本の子供の移動と土地利用について京都大学で博士論文を書いたE・オーウェン・ウェイグッドは、「これは建造環境なのか、それとも文化なのかと考えた」と振り返る。

「その根底には文化的な価値観がある。日本の親は、子供は自分で動き回れるようになるべきだと考える。そして、社会はそれをサポートするような政策を築いている。日本の都市計画は、一つの地区がそれぞれ村として機能するという考えに基づいており、住宅地に店や小さな施設がある。つまり、子供が歩いて行ける場所があるのだ」

ウェイグッドの研究によると、日本の子供は、近隣の多目的なエリアでは子供だけで移動することが多い。目的地が近いというだけではなく、そうした移動の最中に知り合いに会う可能性も高い。

近所の子を気に掛ける

日本の親は知らない人に気を付けるように子供に注意する一方で、挨拶の文化も教えると、ウェイグッドは指摘する。

『はじめてのおつかい』の第7話では、通りを渡ろうとする2歳の女の子(写真)を、近所の顔見知りの商店主が手助けする。14カ国を対象にしたある調査では、近所の大人は他人の子供を気に掛けるという考え方に最も賛成したのは日本の親だった。

こうしたシステムの恩恵を最も受けるのは、母親かもしれない。

子供に付き添いが必要な場面では、日本でもアメリカでも主に母親が面倒を見る。しかし、ウェイグッドの調査によると、10~11歳の子供が平日に親と出掛ける割合は、アメリカの65%に対し日本はわずか15%。子供を解放する街は親も解放する。

これは文化の違いでもあるが、その違いは都市計画のアプローチと深く結び付いている。難しいことではない。その気になれば、どの文化でもまねできるだろう。

©2022 The Slate Group

japan_banner500-season2.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃

ワールド

シリアで米兵ら3人死亡、ISの攻撃か トランプ氏が

ワールド

タイ首相、カンボジアとの戦闘継続を表明

ワールド

ベラルーシ、平和賞受賞者や邦人ら123人釈放 米が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 10
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中