最新記事
シリーズ日本再発見

子供を解放し、母親も解放する日本の街──アメリカから見た『はじめてのおつかい』

It Takes a Village

2022年05月11日(水)18時55分
ヘンリー・グラバー
『はじめてのおつかい』

「幼い子供が街中を1人で歩ける」ことが欧米の視聴者にとって新鮮な驚きでもある(ネットフリックス『はじめてのおつかい』第7話より) 「はじめてのおつかい」Netflixにて全世界配信中

<ネットフリックスが日本の名物番組『はじめてのおつかい』を全世界配信し、話題に。日本の駐車、移動と土地利用を研究する欧米研究者らはどう見たか>

日本でおなじみのリアリティー番組『はじめてのおつかい』が、3月から始まったネットフリックスの全世界配信で話題になっている。

各エピソードは1回10~20分ほど。タイトルのとおり、幼い子供が初めて1人で(実際はカメラマンと一緒に)お使いをする。近所の店を目指し、途中でお使いの内容を忘れてしまい、泣き出して、最後は買い物袋を手にママやパパの待つ家に帰ってミッション達成だ。

1977年に出版された同名の絵本にヒントを得たこの番組は、日本のテレビで1991年から30年以上、放送されている。最近は、親もこの番組でお使いに行ったという親子二代の出演もある。

ネットフリックスのシーズン1第1話では、2歳の男の子が母親に頼まれてスーパーに食料品を買いに行く。第4話では3歳の女の子が、米オハイオ州シンシナティほどの大きさの兵庫県明石市で、5車線の道路を横断して魚市場に向かう。

言うまでもなく、この番組がアメリカで撮影されたら親は児童保護サービスの調査を受け、子供は一時的に施設や里親に預けられることになるだろう。

ただし、『はじめてのおつかい』を日本らしい教育方法だと片付けるのは安易だ。むしろ、日本の社会がアメリカより一世代早く、幼い子供が1人でお使いに行けるよう自立を促す戦略を推進してきたことを物語っている。

【関連記事】『はじめてのおつかい』がアメリカで巻き起こした大論争

集団登校のカルチャー

「日本では多くの子供が近所の学校に徒歩で通う」と、東京大学大学院の加藤浩徳教授(交通工学)は言う。もっとも、2、3歳の子供が実際に1人でお使いに行くことは基本的にない。

一方で、このコミカルでテレビ向きの設定は、日本の社会のある真実を誇張している。日本の子供は幼い頃から、驚くほど自立している点をだ。

「(日本の)道路や街路網は子供が安全に歩けるように」設計されていると、加藤は説明する。そこにはいくつかの要因が働いている。

例えば、日本のドライバーは歩行者に道を譲るように教わり、街中は制限速度が低い。住宅街は小さなブロックに区切られて交差点が多く、子供は何回も道を横断することになるが、車は(ドライバー自身を守るためでもあるが)基本的にゆっくり走行する。

道路そのものも違う。日本は大都市でも細い道路は歩道がないところも多く、歩行者と自転車と自動車が道を共有する。また、路肩駐車が少ないので、車も歩行者も互いに相手から見えやすい。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

政府、経済対策を閣議決定

ワールド

EU、豪重要鉱物プロジェクトに直接出資の用意=通商

ビジネス

訂正-EXCLUSIVE-インドネシア国営企業、ト

ワールド

アングル:サウジ皇太子擁護のトランプ氏、米の伝統的
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中