最新記事
シリーズ日本再発見

日本の分煙環境整備に、たばこ税は使われているのか

2021年10月01日(金)17時30分
西田嘉孝

実際、ネットエイジア社が今年7月、喫煙者と非喫煙者それぞれ500名に「屋外喫煙所整備のためにたばこ税を活用することはよいことだと思うか」を聞いたところ、喫煙者では34.6%が「非常によいことだと思う」、43.6%が「よいことだと思う」と回答。非喫煙者でも29.4%が「非常によいことだと思う」、49.2%が「ややよいことだと思う」と答えている。

つまり、喫煙者と非喫煙者双方の8割近い人が、屋外喫煙所の整備にたばこ税を使うことに賛成しているのだ。

筆者の周囲にも、「近くの屋外喫煙所が閉鎖されて以来、店の横の脇道で路上喫煙する人が増えて迷惑している」(40代・飲食店経営)、「近所の公園でたばこを吸う人が明らかに増えている。受動喫煙を避けるためにもきちんと囲いのある喫煙スペースを作ってほしい」(30代・主婦)など、喫煙スペースの必要性を訴える人は多くいる。

外では吸える海外と、どこでも吸えない日本

日本に先駆けて喫煙規制を進めてきた欧州を見ると、イタリアでは2005年、ドイツやフランスでは2008年、スペインでは2011年から、公共の建物内や飲食店などの屋内が原則禁煙となっている。一方、これらの国のほとんどで、屋外ではいまも自由にたばこを吸うことができる。

パリ在住の日本人女性Aさんにフランスの喫煙環境について聞くと、「もともとパリはゴミをポイ捨てする人が多いのですが、たばこも同じ。屋内では自宅以外にたばこを吸える場所がないので、多くの人は外でたばこを吸ってそのままポイ捨てしているのが現状です」と教えてくれた。

「オフィス街ではビルの入口に灰皿があるので、常に数名の人がそこでたばこを吸っていたり、レストランの裏口では休憩時間にスタッフが集まってたばこを吸っていたり。非喫煙者にとっては、道を歩いているほうが受動喫煙のリスクが高いくらいかもしれません。歩きたばこをしている人も多くて、特に子供が幼い頃はとても怖い思いもしましたね」

室内はどこもかしこも吸えないものの、パブやレストランの周りはたばこの吸殻だらけ。そんな光景は筆者も何度か海外に行って目にしているし、喫煙規制が進むこの十数年でも状況に大きな変化はないようだ。

対して、路上喫煙の禁止やポイ捨ての禁止を法令化してきた日本では、路上でたばこを吸う人やポイ捨てされる吸い殻が大きく減った。

欧州をはじめとする海外とは逆に、屋外禁煙から先に進めてきたのが日本の喫煙規制の特徴だ。だがその日本で、昨年4月から屋内施設が原則禁煙になり、そして屋外喫煙所が十分に足りていない。

全国たばこ販売協同組合連合会の武田さんは、「路上喫煙やポイ捨てはヨーロッパなどでも問題になりつつあります。日本はそうした課題を先駆けて解決してその姿を世界に示し、たばこを吸われる方と吸われない方がともに心地よく共存できる『分煙先進国』を目指すべきだと思います」と話す。

そのためには、屋外分煙施設などの環境整備が不可欠となるだろう。そこにたばこ税の一部を使うことは、確かに理に適ったことと言えるのかもしれない。

japan_banner500-season2.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英自動車生産、10月は前年比23.8%減 ジャガー

ビジネス

東京コアCPI、11月は+2.8% 食品価格減速「

ワールド

香港大規模火災の死者94人に、鎮火は28日夜の見通

ビジネス

小売販売額10月は前年比1.7%増、PCなど家電増
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中