最新記事
シリーズ日本再発見

中国から「トイレ革命交流団」もやって来る、トイレ先進国・日本の最新事情

2020年01月31日(金)17時15分
高野智宏

1台数ドルの簡易トイレシステム「SATO」

日本の誇る先進トイレ技術が、すでに途上国における衛生問題の改善にひと役買っている例もある。総合住宅設備メーカー、LIXILのCSR活動の柱のひとつ「グローバルな衛生課題の解決」のひとつである、途上国向けの簡易トイレシステム「SATO」の製造だ。

「世界には安全で衛生的なトイレを使えない人が20億人いて、そのうち日常的に屋外での排泄を余儀なくされている人が6億7000万人、そして、そんな劣悪な環境での排泄が原因で下痢性疾患を発症し、命を落とす5歳未満の子供が毎日800人にも上っています」と、LIXILのコーポレートレスポンシビリティ室の長島洋子氏は言う。「この状況を改善すべく開発されたのが『SATO』なのです」

japan200131toilet-2.jpg

途上国向けの簡易トイレシステム「SATO」 Courtesy of LIXIL

SAFE TOILETを略して命名された「SATO」の構造は極めてシンプルだ。便器の下にフタがあり、用を足した後、500ミリリットル程度の水を流すことでフタが開き、排泄物が便槽へと流される。その後、おもりの作用で再びフタが閉まることで悪臭や虫が上がってこないというシステムだ。

そのシンプルな構造ゆえ製造単価を抑えることができ、1台数ドルという途上国でも購入可能な低価格帯を実現している。

LIXILは2017年と2018年に、一体型シャワートイレ1台の購入につき、アジアやアフリカの学校を中心に「SATO」を寄付する活動「みんなにトイレをプロジェクト」を展開。その2年間で約40万台をNGOを通じて寄付したという。しかし、重要なのは「SATO」がビジネスであるという点だ。

「『みんなに〜』はマーケティング・キャンペーンという位置づけです。SATOは決してボランティアではなくソーシャルビジネスであり、また、ビジネスモデルでもあるのです」と、長島氏は言う。

ビジネスモデルとはどういうことか。

まず、LIXILが現地の人々の声を聞き、その地域に合ったSATOの設計などの技術開発を行う。実際の製造、販売、施工、保守はライセンス契約を結んだ現地の企業が担当する(現在6カ国で契約中)。

現地で製造することでコストは抑えられ、かつ各工程での雇用が創出されるというモデルだ。これにより、その地に自律的かつ継続的に衛生環境を改善するサイクルも生まれる。

2013年、バングラデシュを皮切りに発売を開始。これまでに「SATO」は世界27カ国で約300万台が出荷されている(昨年10月時点)。1台を5人家族で使用すると想定した場合、1500万人の衛生環境の改善に貢献しているという推計だ。

もちろん、ビジネスだけにLIXILはその先をも見据えている。

「将来、SATOを導入した国が豊かになれば、そこにトイレ周りの衛生市場が生まれます。そのとき、SATOの知名度が弊社が参入するうえで大きなアドバンテージになると考えています」と、長島氏は言う。

つまり、ソーシャルビジネスであり将来を見据えた投資でもあるということ。「トイレ先進国」日本のトイレは、ただ日本を訪れた外国人に称賛されるだけではない。理念とビジネスを両立させた試みが、世界のトイレ事情を変えつつある。

japan200131toilet-3.jpg

「SATO」 Courtesy of LIXIL

japan_banner500-season2.jpg

20200204issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中