コラム

ウォンビンがあの人に......

2011年09月01日(木)17時03分

 『ディープブルー』『アース』など、ネイチャードキュメンタリーで定評のある英BBCが、6年の歳月と制作費35億円をかけて完成させた映画『ライフ―命をつなぐ物語―』が今日(9月1日)、日本公開された。

 世界中の24の動植物(ほとんどが動物)の生態が、ぎゅっと凝縮された90分の中で次々と現れていく。かなりの至近距離で撮られた美しい映像は、新たな撮影テクニックを駆使したもの。自分が小さくなったり大きくなったりしてその動物と一緒に暮らしているような気持ちにさせてくれる。

 映像の素晴らしさはもちろん、ゴリラ、イルカ、ゾウなどよく知った動物の意外な行動、そしてよく知らない動物たちの習性に驚かされる。温泉に入る姿が有名な地獄谷(長野県)のニホンザルも登場するが、みんなが仲良く入浴しているわけではなくて、強い一族のみが入れるという話は寡聞にして知らなかった。

 ドキュメンタリーでは意外に重要なのがナレーションだ。以前、『北極のナヌー』を観た時には、稲垣吾郎(SMAP)のお世辞にもいいと言えないナレーションのおかげで、映画の魅力がかなり減殺されていてがっかりした。

 『ライフ』の日本公開版では、松本幸四郎と松たか子の親子がナレーションを務めているが、この点はよくも悪くもなく、という感じ。動物たちのエピソードをつなげて一つの大きな物語として展開させていこうとする語りは、少しうるさく思えるかもしれない。ただしこれは2人の声や話し方ではなく、脚本の問題だろう。

 もう一つ気になったのは、映画の最初と最後に出てくる解説の字幕だ。動物たちの姿に何を思うかは、観客1人ひとりに任せてもらいたかった。多様な動物たちの生になんらかの結論を与えようとする、押し売り的な文言は圧倒的な自然の前では少々陳腐に思えてしまう。それでも、映画のチカラを感じさせてくれる、子供に見せたいと思える、素敵な作品であることは間違いないが。

 映画を観ていると、こうした細かいことが引っかかり集中できなくなることが多々ある。例えば韓国で大ヒットしたウォンビン主演の『アジョシ』。9月17日に日本公開されるこの作品、ストーリー展開もいいし、映像も迫力がある。でも映画の前半、ウォンビンがどうも「あの人」に見えてしまうのだ(以下、映画を見に行く予定で、作品に集中したい人は読まないでください)。

 『アジョシ』は、都会の片隅で質屋を営んでいる元特殊部隊要員のテシク(ウォンビン)が、自分を「アジョシ(おじさん)」と慕う少女を救うために犯罪組織と戦うアクション&サスペンス作品だ。後半に入り、戦いを決意するテシクは自らの髪を切り落とすが、それまでの前髪が顔にかかった長髪スタイルが、英会話講師リンゼイ・ホーカー殺害事件の市橋達也被告を彷彿させるのだ。黒いパーカーをかぶり、逮捕される時のあの姿だ。

ウォンビンが市橋達也なんて......。

――編集部・大橋希

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story