コラム

選挙という最後の「神通力」失った伊首相

2011年05月23日(月)21時35分

 度重なるセックススキャンダルや汚職疑惑に見舞われながら、なぜか選挙になると無類の強さを発揮して首相の座に居座り続けてきたシルビオ・ベルルスコーニ。だが彼にとって最大の武器だったその選挙でも、ついに「神通力」が通じなくなってしまったようだ。

 今月16日に締め切られたイタリア統一地方選挙では、多くの首相派の候補が手痛い敗北を喫した。特に驚きだったのは、ベルルスコーニの出身地であり1997年から首相派の市長が選出されているミラノ市長選。現職のレティツィア・モラッティが、中道左派のピサピア候補に得票率で7%近い差を付けられて2位に沈んでしまったのだ。

 ベルルスコーニ自身、今回の選挙は政権と自らに対する信任投票だと位置づけていた。地方選挙の結果を自分に対する信任の証とするのはベルルスコーニお得意の戦法で、これまで繰り返しスキャンダルを追求されながらも政治的なダメージを避けることができたのは、こうした選挙で勝利してきたからだった。

 今回も少女買春や職権乱用をめぐる自らの裁判が行われているミラノでは、ミラノ地方裁判所への不満を繰り返し訴えることで、市長選の争点を自らの問題にすり替えようとした。ニューヨーク・タイムズ紙の記事も、ベルルスコーニは左派寄りの裁判官たちが容疑をでっち上げることで、自分の政治的なキャリアを壊そうとしていると主張してきたと指摘する。

 こうした対立構造を打ち出したことから見ても、さすがにミラノで敗れることは想定していなかったのだろう。イタリアの選挙制度では過半数を取らなければ決選投票が行われるため、最終的な結果は今月29、30日に行われる決選投票まで持ち越される。とはいえ、お膝元のミラノで野党の後塵を拝したことはベルルスコーニにとっても大きな衝撃だったようで、イタリアANSA通信によれば首相は「驚き悲しんでいる」という。

 今回の結果は、今度こそ有権者たちがベルルスコーニのスキャンダルに愛想を尽かしたということだけでなく、自国経済の窮状に有効な手が打てない政権の能力を見限ったことでもたらされたと見られる。今やイタリアは、PIIGSと揶揄されるヨーロッパの落ちこぼれ仲間、ギリシャやアイルランド、ポルトガルなどに続き「ユーロ凋落」の象徴的な存在になりつつある。

 地方選の結果が国政に直接影響してベルルスコーニが退陣に追い込まれるわけではないが、選挙に勝てなくなった首相に対する辞任圧力は身内からも強まるかもしれない。すでに連立政権を組む北部同盟(やはり今回の地方選では大苦戦した)からも、ベルルスコーニへの避難の声が上がっている。

 周りはゴチャゴチャ言うが、選挙で示されたとおり国民は私を支持している――その言い訳が通用しなくなったことは、裁判で裁かれる以上にベルルスコーニに大きなダメージをもたらしたのかもしれない。


――編集部・藤田岳人

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、NATO支持再確認 「必要なときに米を

ワールド

トランプ氏との会談望む、同盟国から安全保証の明確な

ビジネス

米12月ISM非製造業指数、54.4に上昇 雇用が

ワールド

ベネズエラ原油、米に無期限供給へ 制裁も緩和か=報
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじゃいる」──トランプの介入口実にデンマーク反発
  • 4
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 7
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 8
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 9
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 10
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 10
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story