コラム

歴史的瞬間のファックな失言

2010年03月30日(火)15時00分

 ジョー・バイデン米副大統領は期待を裏切らない。3月23日、オバマ大統領悲願の医療保険改革法がまさに成立しようというときにやってくれた。ホワイトハウスでの法律の署名式で、バイデンが「大統領、これはクソでかいことですね」(This is a big fucking deal!)とオバマに耳打ちした声がマイクに入ってしまったのだ。この失言が世界中の英語メディアで笑い物になっている。

 fucking は英語圏では禁句だ。fuckやfuckingといったF言葉は非常に下品な言葉で、公式の場で使ったり子供に聞かせたりしてはいけないとされる。真面目な新聞はその言葉を伏せ字にし、テレビはピー音をかぶせる。例えばニューヨークタイムズは、this is a big ... deal と書き、「bigとdealの間にfで始まる形容詞を加えた」と回りくどく説明している(ここは日本語のサイトだから堂々と書きます)。

 歴史的瞬間での失言なだけに反響は大きい。メディアやブロガーは「バイデンがF爆弾投下!」と騒ぎ立て、ホワイトハウスのギブス報道官は「副大統領、あなたは正しい」とツイッターに書きこんだ。ある業者は早くもこの失言を刷り込んだTシャツをネットで売り始めた。

 バイデンの失言癖はあまりにも有名だ。ある上院議員は「失言しなきゃ、ジョーじゃない」と好意的に語っている。最近の例では、医療保険改革をめぐる2月の会合で、隣の人に「副大統領っていうのは楽なものだ。何もしなくてもいい」とつぶやいたのがマイクに入った。そのあと誰かに「父親じゃなくておじいさんみたいなものですね」と言われ、「うん、そのとおり!」と返事したこともバレている。
 
 あるニュースサイトがバイデン失言トップ5の1位に挙げたのは「車いす事件」。車いすのチャック・グラハム上院議員を聴衆に紹介するとき、「チャック、みんなが見えるように立ち上がって」と呼び掛けたのだ。さすがにこのときはすぐ失言に気付き、「私は何を言ってるんだ」とつぶやきながら、今度は聴衆に向かって「チャックのために立ち上がってください」と取り繕っている。

 F言葉の話に戻ると、日本育ちの私はその細かいニュアンスは分からないが、そのタブー度を体感したことはある。十数年前のアメリカ留学中、ボランティアとして近所の児童館で日本文化を教えていた。昔話を翻訳して読み聞かせていたとき、犬をののしる感じを強調しようとfucking dog!と言ってしまったのだ(確か「花咲かじいさん」のここ掘れワンワンの犬だった)。

 その瞬間、十数人いた子供たちは凍りつき、誰かが「うわー」という低い声を漏らした。先生役のアメリカ人女性は目を丸くし、すぐ子供たちに向かって「彼はアメリカに来たばかりで、使っちゃいけない言葉をよく知らなかっただけなのよ」と大真面目に説明していた。

 それ以来、私がF言葉を決して使わなくなったことは言うまでもない。その意味では、バイデンに対してささやかな優越感を覚える。

──編集部・山際博士


このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米JPモルガン 中小企業向け融資を拡大 与信担当者

ワールド

OPEC、3月石油生産がコロナ禍以来の低水準 海峡

ビジネス

米ナイキ、12─2月決算は予想上回る 業績回復には

ワールド

トランプ氏、ロサンゼルスに「強硬姿勢」 サッカーW
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 5
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 6
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 9
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 10
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story