コラム

北朝鮮の麻薬・ニセ札疑惑は「シロ」か

2010年03月03日(水)20時00分

偽造紙幣の製造や武器・麻薬の密売などの違法な手段で外貨獲得にいそしんでいるダークな国家──北朝鮮について、こんなイメージをもっている人は多いだろう。3月1日に公表された米国務省の2010年版「国際麻薬統制戦略報告」の中でも、北朝鮮の麻薬・ニセたばこ取引や偽造紙幣とのかかわりが取り上げられている。

ただし、この報告書は北朝鮮当局が国家ぐるみで違法行為に手を染めているとは断定していない。「北朝鮮の領土を介して偽造たばこの密輸やニセ札の流通などの違法活動が行われ続けている」と指摘するに留めている。微妙な表現には二つの理由がある。一つは、報告書が指摘しているように、北朝鮮当局の関与が立証できないことにある。

もう一つの理由は、こうした違法行為が実は外国人によって行われている可能性があるからだ。北朝鮮問題に詳しい元米外交官によると、北朝鮮産のアヘンが密売されているのは事実だが、実際に密売しているのはハバロフスクやウラジオストクから訪れるロシア人で、北朝鮮の人間はかかわっていないという(北朝鮮国内でアヘンは製造されているが、主に医療目的に使用されているらしい)。

「スーパーノート」と呼ばれる米ドルの偽造紙幣も同じだ。かつては北朝鮮当局がニセ札を製造したと指摘されてきたが、近年では関与が確認されていない。先の元外交官によると、最近のスーパーノートは中国の元人民解放軍幹部らが北京で製造し、マカオのカジノや中朝間の国境貿易などを経由して北朝鮮国内に入り、流通しているものが多いという。

偽造たばこについても、報告書は「(北朝鮮北東部の)羅津経済貿易地帯で大規模な密売取引が行われ続けている」としているが、「北朝鮮当局が(偽造たばこの密売に)どれだけ加担しているかは不明だが、報告の多さからして密売を認識している可能性は高い」と述べるに留めている(ちなみに、この元外交官によると北朝鮮の偽造たばこは「禁煙したくなるほどまずい」らしい)。

もちろん、これで北朝鮮が完全に「シロ」というわけではない。日本の政権与党の某幹事長の政治資金疑惑のように......。

──編集部・横田 孝

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story