コラム

FRBの利上げ姿勢が和らぐ兆し~円安が続くという見方は妥当か~

2023年10月17日(火)18時10分
FRB(米連邦準備理事会)パウエル議長

FRB(米連邦準備理事会)パウエル議長 REUTERS/Evelyn Hockstein

<FRBの追加利上げに対する姿勢が和らぐ中で、一方で、日銀が金融緩和の手仕舞いにゆっくり向かいつつある。これらの金融政策への思惑が、今後のドル円相場の行方を左右する......>

為替市場で、ドル円は9月末から1ドル150円付近での推移が続いている。米経済の底堅さを背景に、米金利の高止まりが長引くとの見方が円安ドル高を後押ししている。

一方で、FRB(米連邦準備理事会)からは、「夏場からの長期金利上昇は利上げに相当する効果がある」との複数の高官の発言が10月5日頃から発せられている。最近の米長期金利上昇を、政策効果の浸透の結果とFRBは位置付けているとみられるが、9月からの長期金利上昇ピッチがあまりに早く、牽制するに至ったということだろう。

追加利上げの可能性は高くない

これらの発言は、市場の大きな変動に対する応急的な対応の側面があるだろうが、既に利上げが十分な所まで行われたとの認識がFRBの中で強まっていることも、影響しているとみられる。9月FOMC時点では、年内の追加利上げを想定する参加者が半分以上いたが、これはインフレ警戒姿勢を緩めないという「ポーズ」の意味合いもあったのだろう。実際には、金融市場での「金融環境タイト化」によって、FOMCメンバーのリスク判断(=高インフレリスクvs引き締めし過ぎのリスク)が容易に変わりうる、ということではないか。

もちろん年内2回のFOMC会合が残っており、9月分の雇用統計などの強さを踏まえると、追加利上げの可能性が払拭されたわけではない。ただ、中心的なメンバーにとって追加利上げの決断に至るには、経済やインフレ率のかなりの上振れが条件になっているとみられる。追加利上げの可能性は高くない、と筆者は考えている。

日銀が緩和から引き締めに向かうなら......

米長期金利の上昇は10月10日頃から一服しつつあるが、ドル円は150円付近の円安水準はあまり変わっていない。FRBの利上げの終わりはみえても、タカ派姿勢が変わるまでは、ドル高が続くとの思惑が根強いのかもしれない。一方、FRBの利上げが最終局面に近づく中で、日本銀行は24年の春までに金融政策の正常化を始める可能性が高まっているとみられる。先んじて利上げを続けたFRBに遅れて日銀が緩和から引き締めに向かうなら、過去1年半続いた円安の構図は変わりうるだろう。

円安はまだ続くとの見方も多いが

一方で、円安はまだ続くとの見方も多い。一例として、日本では貿易収支の赤字が続いている為、円安が続くとの見方がある。輸出よりも輸入が多いので、輸入に際して「円を売る」という実需の取引が発生するので、貿易赤字だと円安への需給が増え易い点を重視する見方である。ただ、実際にはモノの取引は、為替市場の取引のごく一部である。また、貿易赤字(黒字)になれば通貨安(高)に動くという、貿易収支を均衡させる調整弁として為替レート(ドル円)が動くとの考えがあるのかもしれないが、これは危うい理屈にみえる。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独主要シンクタンク、25年成長率を上方修正 財政拡

ビジネス

ECB金利は適切な水準、インフレ低下は一時的=シュ

ワールド

IAEA理事会、イラン非難決議採択 イランは対抗措

ワールド

英国行きインド航空機が離陸直後墜落、 西部アーメダ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 2
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 5
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 6
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    【クイズ】今日は満月...6月の満月が「ストロベリー…
  • 9
    みるみる傾く船体、乗客は次々と海に...バリ島近海で…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 9
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story