コラム

大竹伸朗は、いかに人と違った経験と生き抜く力でアーティストの道を開拓していったか

2022年10月31日(月)11時25分
大竹伸朗

2018年6月、《直島銭湯「I♥︎湯」》天井画の再制作時の様子(写真:井上嘉和)

<直島を訪れたことのある人なら、色とりどりのネオンが光る銭湯や、外壁そのものがスクラップブックのような「はいしゃ」が脳裏に焼きついているだろう。それらを生み出したのが大竹伸朗だ>

各島で展開される数々の作品・施設群

ベネッセアートサイト直島は、その規模および内容や活動において世界に類をみないユニークな場所である。その活動はアートを中心とするものの、それだけに限定されるわけではなく、また、直島と名前が付いてはいるが、実際は近隣の豊島、犬島を加えた3島で展開されている。

美術館やギャラリーと名の付く施設は複数あるが、ほかにも、集落のなかで使われなくなった古民家等を利用してアーティストが家全体を作品化した「家プロジェクト」や、自然環境のなかには屋外彫刻インスタレーションなども点在する。

アートがいわゆる建築の箱の中だけに限定されるのではなく、自然や生活のなかも含め幅広いエリアに展開する、まさに「サイト」であり、複数の施設で構成されるミュージアム・コンプレックス、あるいは島全体を美術館と捉えることも可能だろう。

数十年にわたって、この場所に継続的に関わりをもつアーティストの存在も特徴的である。なかでも、初期からこの場所で最も多くのプロジェクトを展開している作家が大竹伸朗だ。おそらく一人の作家の作品制作や展示をこれだけ幅広く継続的に展開している例は、世界広しと言えども、そうそうないだろう。

現在、常時見ることの出来る大竹作品を挙げると、まず直島では1994年以降、ベネッセハウス屋外の海岸沿いとカフェの外の芝生の上に恒久設置されている3つの立体作品《シップヤード・ワークス 切断された船首》《船尾と穴》《シップヤード・ワークス 船尾と穴》がある(いずれも1990年制作)。また、昔ながらの街並みを残す本村地区には、2006年に、かつて歯科医院兼住居だった建物を作品化した家プロジェクト「はいしゃ」と《舌上夢(ぜつじょうむ)/ボッコン覗(のぞき)》が完成。そして、宮浦港に近い宮ノ浦地区では、実際に利用できる銭湯であり、かつ作品でもある《直島銭湯「I♥︎湯」》が、2009年より営業中だ。

一方、高松に近い女木島(めぎじま)にある休校中の小学校の校舎では、2013年より《女根/めこん》の展示が公開され、2016年には豊島の家浦岡集落にて、メリヤス針の製造工場跡を使った《針工場》も公開されることとなった。また、期間限定ではあったが、2001年に開催された「スタンダード」展での、閉じられていた商店内における《落合商店》の展示や、「Man Is Basically Good 大竹伸朗個展1982-2000」(2002年、直島コンテンポラリーアートミュージアム)、「既憶景」(2014年、宮浦ギャラリー六区)なども行われている。

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大竹伸朗《落合商店》、「スタンダード」展での展示風景、2001年(写真:上野則宏)

プロフィール

三木あき子

キュレーター、ベネッセアートサイト直島インターナショナルアーティスティックディレクター。パリのパレ・ド・トーキョーのチーフ/シニア・キュレーターやヨコハマトリエンナーレのコ・ディレクターなどを歴任。90年代より、ロンドンのバービカンアートギャラリー、台北市立美術館、ソウル国立現代美術館、森美術館、横浜美術館、京都市京セラ美術館など国内外の主要美術館で、荒木経惟や村上隆、杉本博司ら日本を代表するアーティストの大規模な個展など多くの企画を手掛ける。

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