コラム

情報機関が異例の口出し、閉塞感つのる中国経済

2024年02月13日(火)17時17分

今とるべき対策は国内需要を増やすことだとすれば、経済学の教科書的な処方箋は、財政赤字を拡大して公共投資を増やして景気を刺激するか、金利の引き下げなどの金融緩和をとるべきだということになろう。

だが、このいずれの手段も現状では手詰まり感が強い。

財政赤字についていうならば、2023年は当初予算ではGDPの3%の財政赤字率を予定していたが、第4四半期に1兆元の国債発行を追加したので、財政赤字率は3.8%となる見込みである。しかし、2024年も予算では財政赤字率が3%をやや上回る程度となる見込み(『21世紀経済報道』2023年12月25日)であり、中国政府の財政赤字拡大に対する慎重姿勢が続く。

また、地方政府が傘下の企業に発行させて都市インフラ投資などに充てる「城投債」と呼ばれる準地方債については2023年9月以降発行額が急減しており、一方で繰り上げ償還するケースが増えていることから、城投債の発行額の残額は2023年11月以降減少している(『21世紀経済報道』2023年12月21日)。

これまで中央と地方の公共投資によって高速鉄道や高速道路、工業団地や住宅団地の整備が進められ、2020年のコロナ禍以降は「新型インフラ建設」と称して5G通信ネットワークや自動運転設備などの建設も進められてきた。しかし、インフラ建設は建設業や建材に対する需要を喚起するとしてもインフラが充実すればするほどインフラ自体の経済的・社会的効果は減っていく。東京都と面積がほぼ同じ深圳市の地下鉄の総延長が548キロメートルで、東京メトロと都営地下鉄の合計(304キロメートル)の1.8倍にもなっているのをみると、もはや新規にインフラ建設を行う余地も小さくなっている可能性がある。

一方、中国の政策金利の指標である最優遇貸出金利(LPR)をみると、期間1年の金利が2023年初めの3.65%から6月に3.55%、8月に3.45%と、ごく小幅の切り下げにとどまっている。ゼロ金利を見慣れた日本人の目からすると、デフレが始まっているのに何とも手ぬるい金融緩和である。ただ、アメリカの金利が高いときに自国の金利を引き下げると資金流出が加速してしまい、それによって人民元の為替レートにも下落圧力がかかり、為替レートが下がるとアメリカに「為替レート操作だ」とみなされてさらなる経済制裁を食らいかねない。また、貸出金利の引き下げは銀行の利ザヤを圧迫することにもなる。そうした事情から中国の中央銀行は思い切った金融緩和の手を打ちにくいのだろうと思われる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、米のガザ停戦案受け入れ

ビジネス

インドネシア新財務相、8%成長も「不可能ではない」

ビジネス

インドネシアのスリ・ムルヤニ財務相を解任、後任にプ

ワールド

対ロ制裁は効果ない、ウクライナ戦争で方針変えず=ク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給与は「最低賃金の3分の1」以下、未払いも
  • 4
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 5
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 6
    コスプレを生んだ日本と海外の文化相互作用
  • 7
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 8
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 9
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 10
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 10
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story