コラム

情報機関が異例の口出し、閉塞感つのる中国経済

2024年02月13日(火)17時17分

さきほどの図にみるように、若年層失業率は2023年6月に21.3%というピークに達した後、しばらく公表されなくなり、半年後の2023年12月に14.9%という数字が発表された。もしかして若年層失業率があまりに高いために国家統計局が党のお偉いさんから数字の隠蔽を命じられたのでは!? との憶測も呼んだが、若年層失業率の統計の公表が再開された2024年1月に発表された国家統計局の説明(国家統計局、2024)を読むと、むしろ2023年6月までの若年層失業率の統計数字に問題があったことがわかる。

前述のように、失業者とは、就業に関するアンケート調査に対して1週間の間に1時間も働いていないと答え、かつ「仕事を探していた」と答えた人を指す。大学などに在籍して就職活動中の学生は、2番目の質問に対しては「就学している」と答えるべきであるが、2023年6月までは「仕事を探していた」と回答していた学生がかなりの数に上ったようだ。たしかに、図を見ると、中国の大学等の卒業月は6~7月であるにもかかわらず、2022年と2023年は3~4月から失業率が上昇し、卒業月にピークに達する。就活に失敗する学生が多くて、卒業しても仕事がないという場合には、卒業月に失業率が急上昇するはずであるが、それ以前から失業率が上がっているのは、卒業前に就活をしている学生たちが失業者にカウントされていた可能性を示唆する。

そこで2023年12月の若年層失業率の統計からは大学等に在籍している学生は失業調査の対象から外すように統計基準が変更され、その結果、若年層失業率は14.9%と算出された。若者の65%が就学しているので、都市部に住む16~24歳の若年層のうち5.3%が失業者だということになる。

もっとも、だからといって中国の若者たちの就職難なんてウソだなどと言うつもりはさらさらない。2023年以来、私は中国の大学の先生たちと会うごとに「学生の就職状況はいかがですか?」と尋ねているのだが、一様に「悪い」という答えが返ってくる。清華大学の先生によれば、2023年に学部卒で就職しようとした学生が400人いたのだが、会社や国家機関などの勤めを得たのはそのうちの半分で、残りの半分はフリーターまたは自分で創業する道を選んだという。なお、失業者の定義は中国に限らず日本でも「1週間の間に1時間も仕事をしておらず、かつ求職している人」なので、週に1時間以上働いていればフリーターでも就業者ということになる。中国の都市ではフード・デリバリーに従事する若者をとても多く見かける。この人々は失業者ではないものの、収入が不安定かつ低いことは容易に想像できる。超一流大学である清華大学の卒業生であっても学卒で就職を選ぶ者の半数は不安定な道を選ばざるをえない状況にあるというのは、やはり就業状況の相当厳しいことを物語っていよう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story